頚椎損傷と闘う大谷晋二郎も「プロレスって凄いな」…22団体55人のジュニア戦士集結のオールスター戦が見せた未来

スポーツ報知
1日のジュニア・オールスター戦での共闘後、健闘をたたえ合った高橋ヒロム(右)とAMAKUSA(カメラ・中村 健吾)

 「時間は長かったけど、面白かったから、あっという間でしたね」―。

 午後9時半、ビル5階の後楽園ホールから1階に降りるエレベーターの中でのこと。午後5時40分のダークマッチ開始からメインイベント終了まで4時間半にわたって激闘を撮影し続けたプロレス専門媒体のカメラマンが、そう私につぶやいた。その一言が全てを物語る史上初のジュニアレスラーの祭典だった。

 1日、東京・後楽園ホールで行われたジュニアヘビーのレスラーを集めて行われた「ジュニア夢の祭典 ~ALL STAR Jr FESTIVAL 2023~」大会。格闘技の殿堂には団体と団体、メジャーとインディーの壁を越えて、国内外22団体から55人のトップレスラーが集結。全10試合が行われた。

 まずは2020年に引退したジュニアのレジェンド・獣神サンダー・ライガーさんが登場。開会宣言後、「ある選手からメッセージが届いています」と明かすと、「今日、今のジュニアの最前線で戦うレスラーが集結することに自分もワクワクしています。熱い、熱いプロレスファンの皆さん、今後ともプロレスをよろしくお願いします」と言う頚椎損傷で入院中の大谷晋二郎(50)のメッセージを読み上げた。

 さらに「ジュニアと言えば、この方を呼びたいと思います」と言うと、リング上に藤波辰爾が登場。69歳のレジェンドは「45年前の(ジュニア時代の)記憶が戻って来ました。来年は俺も出ようかな」とジョークを飛ばしつつ、満面の笑みを浮かべた。

 用意されたのは、昨年から「ジュニアのオールスターを!」と提唱してきた新日本プロレスのIWGPジュニアヘビー級王者・高橋ヒロム(33)が真っ黒の床面に白い文字で「ジュニア最高」と大書したリング。

 その上で新日、全日、ノア始め暗黒プロレス組織666、大阪プロレス、ガンバレ☆プロレス、九州プロレス、大日本プロレス、パンクラスMISSION、プロレスリングSECRETBASE、ゼロワン、プロレスリングBASARA、フリーダムズ、みちのくプロレス、琉球ドラゴンプロレス、CMLL、DDT、ドラディション、ドラゴンゲート、GLEAT、JUST TAP OUT、2AWの22団体のジュニアのスターたちが躍動した。

 “主役”のヒロムは「全試合をゆっくり見たい」という理由でダークマッチ後の第1試合にいきなり登場。ノアのGHCジュニアヘビー級王者・AMAKUSA(37)、みちのくプロレスの東北ジュニアヘビー級王者・フジタ”Jr.”ハヤト(36)と王者トリオを結成。ドラゴンゲートのYAMATO(41)、ノアのHAYATA(35)、大日本プロレスの橋本和樹(32)組と激突した。

 試合は序盤から当初はボイコットの意思を示していたYAMATOら3人がかりの攻撃を受けたヒロムが劣勢となったが、2月21日の武藤敬司引退興行で好試合を演じたAMAKUSAとの好連携で橋本を痛めつけると、最後は脊髄腫瘍髄内腫瘍上衣腫によるガン闘病中のハヤトが強烈なバズソーキックからのK.I.Dで3カウントを奪った。

 団体の枠を超えて勝利の雄叫びをあげたヒロムら3人。現在のジュニア界の事実上のトップ・ヒロムはバックステージでAMAKUSAに「また定めが導くのであれば、交わるであろうぞ」と言わせ、ハヤトには自ら「シングルマッチ、やりましょう」と呼びかけ、「俺のガンとか、どうでもいい。このコロナとかクソみたいな世の中で娯楽がいっぱいある中でプロレスを選んでくれるファンのために、あとどれだけ戦えるか分からないけど、やってやるよ」と受諾させた。

 YAMATOにも「おい! ヒロム。今日の立役者はおまえだ。このリングに俺が立ったのは、おまえの顔を立てるためだ。次はおまえが嫌々でも、ドラゲーのリングに立って、俺の顔を立ててくれ」と対戦要求された。

 各団体のジュニアのトップスターに“公開プロポーズ”された形のヒロムは「言いたいことは山ほどあるけど、楽しかった~! 戦って下さった皆さんが大好きです、プロレス、最高! ジュニア最高!」と絶叫。「次の試合から見たいからさ。この辺でいいでしょ」と会見を切り上げ、解説席へと走った。

 そして、メインイベントでこの日の主役となったのが、新日ジュニアのホープ・マスター・ワト(25)だった。全日の前世界ジュニアヘビー級王者・青柳亮生(23)との一騎打ち。激しいエルボー合戦からスタートした一戦は青柳が場外へのムーンサルト・アタックでリードすれば、ワトもノータッチのトペ・コンヒーロで対抗。互いに抜群の身体能力を披露し合った末、最後は青柳のファイアーバード・スプラッシュをひざを立てて迎撃したワトが必殺のレシエンテメンテ2で3カウントを奪った。

 新日の大会として行われたこの日のオールスター戦だけに、新日主導の匂いは確かに漂った。声を出しての応援が解禁となった札止め1381人の観客も試合開始時こそ、「ワト!」の声援が多かったが、青柳のスピーディーで魅力的な戦いに徐々に「アツキ!」の声援が増え、拮抗(きっこう)していった。それほど、2人の戦いはスリリングで魅力に溢れていた。

 快勝後、リング上でマイクを持ったワトは「ジュニアにはヘビー級にない戦い方があると思います。俺はそんなジュニアが好きだ! ジュニアの未来はここにある。俺たちに任せて下さい!」と絶叫。

 大舞台こそが人を作る。

 新日では、ヒロム、この日も出場したエル・デスペラード(39)、石森太二(40)のジュニア3強の影に隠れがちだった逸材が大一番で、その潜在能力の全てを開放して見せた。

 バックステージでも「ジュニアのオールスター戦のメインにこの試合が組まれた意味をしっかり理解して戦いました。ジュニア全員の未来を俺に任せて下さい!」と言い放ったワトはヒロムを名指しして、「ヒロムさん、あなたがジュニアのすごさを俺に教えてくれた。もっと、ジュニアを好きにさせてくれ。もっと、もっと、もっと、ジュニアを熱くします」と、ヒロムのマイクパフォーマンス「もっと、もっと、もっと」を拝借した上で堂々、宣言した。

 プロレス最大の魅力が100キロを超えるヘビー級レスラー同士のパワフルなぶつかり合いにあるという見方を私も否定はしない。

 だが、この夜の後楽園ホールで繰り広げられたのは、ジュニアでしか展開できない、あり得ないほどスピーディーで、テクニカルな戦いの数々。失礼ながら、初めて、そのファイトを見る選手が多い中、私は次々と素晴らしいジュニア戦士を“発見”し、魅了されていった。背景にある団体の離合集散や現在も続く個人的確執、そして、闘病、大ケガなどの人間ドラマと共に。

 ワトが口にした「ジュニアにはヘビー級にない戦い方がある」という言葉通りの魅力的な試合の数々、そして55人分の人生が、そこには確かにあった。

 そして、2日夜、大会に熱いメッセージを寄せ、自身を応援する「がんばれ!大谷晋二郎10人タッグマッチ」も行われた大谷が自身のツイッターを更新。こう、つづった。

 「やっぱりジュニアヘビーって凄いな プロレスって凄いな 帰りたいな… 絶対に帰るんだ!!」

 そう、ジュニアヘビーってすごいし、プロレスって、やっぱり、すごい。

 4時間半、全10試合を見届けた私は、大谷と全く同じことを思った。会場を埋めた1381人の観客も、きっと同じことを感じたと思う。

 そして、戦いを終えたヒロムの元に各団体のトップジュニアたちからの対戦要求が集まった一方で大会の中盤には、新日ジュニア外国人の“顔”ロッキー・ロメロ(40)がビデオメッセージで米国でのジュニア・オールスター開催を訴える場面もあり、ジュニアの祭典の世界進出の道まで見えてきた。

 団体の枠を超えたジュニアの戦いはこれからが本番。この夜の祭典は、まさに序章に過ぎない。

 プロレスファンの皆さん、お楽しみは、これからだ。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆「ジュニア夢の祭典 ~ALL STAR Jr FESTIVAL 2023~」全成績

 ▽スペシャルプレゼントマッチ

 〇YOH(新日)、渡辺壮馬(GLEAT)、須見和馬(DDT)(10分35秒 DIRECT DRIVE→体固め)星野良(ZERO1)、阿部史典(フリー)、十文字アキラ(JUST TAP OUT)●

 ▽6人タッグマッチ30分1本勝負

 〇フジタ”Jr.”ハヤト(みちのくプロレス)、高橋ヒロム(新日)、AMAKUSA(ノア)(8分52秒 K.I.D)HAYATA(ノア)、YAMATO(ドラゴンゲート)、橋本和樹(大日本)●

 ▽タッグマッチ30分1本勝負

 〇MAO(DDT)、木高イサミ(BASARA)(9分43秒 反則)怨霊(暗黒プロレス組織666)、SHO(新日)●

 ▽がんばれ!大谷晋二郎10人タッグマッチ30分1本勝負

 〇高岩竜一(フリー)、葛西純(FREEDOMS)、金丸義信(新日)、田中稔(GLEAT)、TAKAみちのく(JUST TAP OUT)(10分28秒 デスバレーボム→片エビ固め)北村彰基(ZERO1)、関札皓太(大日本)、LEONA(ドラディション)、MUSASHI(みちのくプロレス)、チチャリート・翔暉(2AW)●

 ▽6人タッグマッチ30分1本勝負

 〇佐藤光留、今成夢人(ガンバレ☆プロレス)、田口隆祐(新日)(パンクラスMISSION)(7分29秒 腕ひしぎ十字固め)ザ・グレート・サスケ(みちのくプロレス)、タイガースマスク(大阪プロレス)、ばってん×ぶらぶら(九州プロレス)●

 ▽3WAYタッグマッチ30分1本勝負

 〇エル・デスペラード(新日)、ボラドールJr.(CMLL)(10分34秒  ピンチェ・ロコ→エビ固め)DOUKI(新日)、HANAOKA(プロレスリングSECRET BASE)

 ※もう1組は、エル・リンダマン(GLEAT)、上野勇希(DDT)●

 ▽マスクマン8人タッグマッチ30分1本勝負

 〇ミスティコ(CMLL)、アレハンドロ(ノア)、ビリーケン・キッド(大阪プロレス)、グルクンマスク(琉球ドラゴンプロレスリング)(11分29秒 ラ・ミスティカ)BUSHI(新日)、アトランティスJr.(CMLL)、ドラゴン・キッド(ドラゴンゲート)、ブラックめんそーれ(全日)●

 ▽シングルマッチ30分1本勝負

 〇CIMA(GLEAT)(7分16秒 メテオラ→エビ固め)平田一喜(DDT)●

 ▽5WAYマッチ30分1本勝負

 石森太二(新日)(9分38秒  ブラディークロス→エビ固め)YO―HEY(ノア)

 ※他の3人は、ニンジャ・マック(ノア)、ソベラーノJr.(CMLL)、シュンスカイウォーカー(ドラゴンゲート)

 ▽シングルマッチ30分1本勝負

 マスター・ワト(新日)(14分24秒 レシエンテメンテ2)青柳亮生(全日)●

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