フィギュアスケート男子で2014年ソチ、18年平昌五輪を連覇し、昨年7月にプロ転向した羽生結弦さん(28)が26日、スケーター史上初の単独による東京ドーム公演「GIFT」を開催した。伝説の一夜を、高木恵記者が振り返った。
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東京ドーム中央のリンクに立つ羽生結弦が両手を広げた。3万5000人のスタンディングオベーション。壮観な景色だった。体一つで届けた「GIFT」。羽生結弦にしかできないショーだったと、今改めて思う。
2時間半超の公演を一人で滑りきった。日本を代表する演出振付家のMIKIKOさんによるプロジェクションマッピングとの融合、東京フィルハーモニーの生演奏。「名だたるメンバーが集まっているからこそできた総合エンターテインメントを作れた」と話す羽生結弦の表情は充実感に満ちていた。
スケーター初の東京ドーム公演。一夜限り。相当なプレッシャーがあっただろう。この日のためだけに設置された巨大ステージ。開催に携わった大勢の仲間。世界配信。「正直ここまで来るのにめちゃくちゃつらかったです。むちゃくちゃ頑張って練習してきました。練習したことが、報われねえなって思うこともいっぱいありました。皆さんの期待に応えられるか、本当に分からなくて、つらい時期もありました」。どれほどの努力を重ねたのだろう。本番を見事に演じ上げた。
自らつづった物語と大切なプログラムをもとに、「半生」と「これから」を氷上で表現した。演目と演目の間の一人語りが、また抜群にうまい。自身と向き合い続けたスケート人生の苦悩、葛藤、その過程での温かな気づき。「一人」、「独り」。誰しもの中に存在する痛みや光を込めたアイスストーリーは、見る者の心に響いた。
前半の最後は試合同様6分間練習からの「序奏とロンド・カプリチオーソ」。ワンマンショー、それも失敗が許されないたった一度の公演に、この曲を選んだ覚悟が羽生結弦らしかった。ジャージーを脱ぐ。「ロンカプ」の衣装に歓声が湧く。北京五輪で氷の穴にはまり、回転が抜けた冒頭の4回転サルコーを成功した。試合と同じ構成を滑りきった。舞台からはける直前、強く握った右拳はこの日のハイライトの一つだった。
「この会場に入った時に思ったことは、自分ってなんてちっぽけな人間なんだろうっていうことでした」。巨大な空間を相手にした表現への挑戦だった。新曲2曲を含む12演目を披露した。指先まで意識が行き届いた美しいスピンは雄弁に語った。6本の4回転をすべて着氷させた。どれもがまるで、公演最初のプログラムのように上質だった。
「言葉のない身体表現だからこそ受け手の方々がいろんなことを感じることができるっていうのが、フィギュアスケートの醍醐(だいご)味」。羽生結弦の技術、表現力と一流の集いは、新しいエンタメの形を提示した。プロ転向後最初のアイスショー「プロローグ」で「フィギュアスケートっていうものの限界を超えていきたい」と言った。まだ見ぬ新しい景色へ、限界突破を繰り返していく。(高木 恵)
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