甲子園球場にほど近い兵庫・西宮市に中学生を対象とした軟式野球クラブ設立の動きが本格化している。「小・中学校の野球人口激減」と「部活動の地域移行」の流れをくみ、非営利法人「Nest Baseball Teams」の発足に動いているのが野村努さん(55)。自身の構想を関係者に伝え、元阪神、DeNAでNPB通算97勝を誇る久保康友氏(42)の協力も取りつけた。来年春の誕生を目指す小・中一体型軟式野球チーム「オール甲山クラブ(仮称)」の裏側に迫った。(表 洋介)
閑静な住宅街にあるグラウンドに、元気ある掛け声が響く。青い生地に黄色いラインの入ったユニホームを身にまとった少年たちが全力でグラウンドを駆け回っている。学童野球の指導に15年近く携わってきた「神原苦楽園ツインスターズ」で総監督を務める野村努さんは「こうやって活動できているのは幸せなことです。ほんの少し前までは本当につらい時期でした」としみじみと振り返った。
野村さんは郡山高、同大で投手としてプレーし、現在は会社員として働きながら週末は子どもたちの指導に励んでいる。苦境に立たされたのは学童野球チーム「苦楽園オールヒーローズ」を率いていた2020年の夏。コロナ禍に中学受験も重なり、6年生部員8人中、7人が休部。チーム総勢でも5年前まで50人近くいた部員は、いつの間にか半数近くに減っていた。
「このままではとてもA級(6年生主体のチーム)では戦えない。野球が大好きな子どもたちの環境を整えることができない」。悩んだ末に解決策として思いついたのが隣接チームとの合併だった。学童チーム「神原スピリッツ」に粘り強く交渉を持ちかけ、22年度から「神原苦楽園ツインスターズ」が誕生。新チーム発足時に2チーム計31人だった部員も、相乗効果で50人を超えるまで増えた。
大きな危機は乗り越えたものの、課題は山積している。ここ10年で日本の小・中学生の野球人口は激減し、西宮市の学童野球チーム、中学野球部の運営も一筋縄ではいかない。同地区のある中学の野球部も17年に部員不足で休部。何とか周辺の学童チームの指導者の協力もあり、復活に至ったが、慢性的な選手減少の歯止めはかかっていない。
さらに昨年6月にはスポーツ庁が部員減や教員の負担軽減の対策として「部活動の地域移行」の方針を公表。ただ具体策は示されておらず、未来に向けた仕組みや移行方法を考えないと、現場は混乱し、ますます子どもたちが行き場を失ってしまう。
「野球を続けたい子は硬式チームに入ればいいという声もありますが、用具や費用面、能力的にも、誰しもが簡単にできるわけではない。実は中体連の野球部に所属しているのは硬式の3倍の14万人と言われています。将来の野球界のためにも軟式の受け皿は絶対に必要だと思っています」。2月下旬に野村さんは近隣の少年野球チームに呼びかけ、合同練習を行った。教え子、そして球界の未来のために、新たな一歩を踏み出した。(後編に続く)。