2016年リオ五輪競泳男子400メートル個人メドレー金メダリストの萩野公介氏(28)がスポーツ報知の取材に応じ、WBCに挑む侍ジャパンへエールを送った。同学年のエンゼルス・大谷やカブス・鈴木誠と親交があり、自他共に認める“野球オタク”。「大谷翔平選手とマイク・トラウト、本来実現しない2人の対戦が楽しみ」など独自の視点でWBCの見どころも語り、栗山ジャパンの活躍を願った。(取材・構成=大谷 翔太)
各国や地域にメジャーリーグのスター選手がそろう第5回WBC。21年8月に現役引退後、メジャーの試合も現地観戦するなど大の野球好きの萩野氏は、胸を躍らせる。
「アメリカは、ゴールドシュミットやトラウトも出る。メンツがえげつない…。ドミニカ(共和国)も強いですよね。今回は世界中に選手がそろっている中で、日本は例えば今『村神様』と言われている村上宗隆選手がメジャーのピッチャー相手にどういうバッティングをしていくのか。そういう点は楽しみですね」
さらに、国同士の戦いであるWBCならではの魅力もあると言う。
「例えば、大谷翔平選手のピッチングとトラウトのバッティング。本来同じチームでは実現しない戦いが実現する。どうなるんだろうと、楽しみの一つですね。確率的には大谷選手が抑えると思います。ただ、マイク・トラウトというのは世界最高のバッターです。デビュー当時から打つフォームが全く変わらず、どのコースにどの球を投げられても崩されずに打つ。この対戦は面白いですね」
その大谷翔平とは、同じ1994年生まれ。15年に対談企画で初対面後、オフ期間には共に食事をするなど親交を深める。
「去年の11月くらい、大谷選手が日本に帰ってきたタイミングで会いました。出会った当時から、何も変わってないですね。その時は鈴木(誠也)選手も一緒で、野球の話もしました。僕も大リーグを結構見ていて選手一人一人の特徴などが分かっているので、面白い話を聞くことができました。『誰のスライダーはすごいよね』とか聞くと、『あれはこうで』って教えてくれたり。僕もうれしくなっちゃっていろいろ聞きました。日頃のオタクの成果が出る、一番楽しい時間でしたね(笑い)」
94年生まれにはトップアスリートが多く、「ワンダフル世代」として高め合ってきた。萩野氏は野球選手・大谷を「異次元」と語る。
「ダルビッシュさんが、トラウトくらいホームランを打つようなもの。数字を見れば、15勝するピッチャーが40本ホームランを打っているわけですから。ありえないことです。だから、大谷翔平選手のすごさは本当に異次元。それは誰しもが認めていることですよね。僕が現役の時は、朝練習が終わってご飯の時にテレビをつけると、MLB中継をやっていました。『翔平、またホームラン打ったな』とか、午後練習に向けて刺激をもらっていました」
自身は現役時代、個人メドレーを軸に自由形、背泳ぎなどの多種目で世界に挑んだ。二刀流という大谷の挑戦を、どう見ているのか。
「本人は、チャレンジだとは思っていないんです。僕もそうでした。大谷選手は自分がやりたいことをやって、結果的に二刀流になっていると思う。彼は本当に野球が好きだから。自分という可能性、自分のパフォーマンスを最大限に発揮するためにはどうしたらいいかを選んでやっているだけ。だから大谷選手にとって二刀流は、大きなことではないと思います。僕は(五輪で金メダル通算23個の)マイケル・フェルプス選手を見て育って、『彼みたいになりたい』と思って頑張っていました。だから周囲から『多種目にチャレンジしてすごいね』と言われても、自分の枠組みは皆の枠組みと違うところにある。そういう感覚でした」
野球は、競泳と比べて日の丸を背負う機会は多くない。リオ五輪で金メダリストとなった萩野氏が感じる、国を代表する戦いとは。
「僕たちは逆に、国を背負ってやるほうしかない。国旗が出るとか国歌が流れるとか、感じることは人それぞれだけど、クラブチームでしかやったことがない選手には、国を背負ってやるということはないことですよね。そういう独特な雰囲気の中では、同じ野球でも違う野球になるのかなと思います。個人的には、4番・村上選手は『日本の野球』という感じがしていいかなと。大リーグは強い打者を2番や3番に置くけど、強いバッターを4番に、というのが日本として戦う一つの意思表示だと思うので。すごく楽しみです」
侍ジャパンは3月9日に中国と初戦を迎える。萩野氏は世界一奪還を応援しつつ選手のワンプレー、ワンプレーに熱視線を送る。
「僕はWBCでどんなプレーが見られるんだろうと、そっちが楽しみ。速い球を投げるとか打ってどこまで飛んでいくかとか、純粋に『すごい』と思うプレーを見ることがスポーツの醍醐(だいご)味の一つ。普段プロ野球を見ている人たちがWBCでメジャーリーガーのプレーを見て、大リーグを見るきっかけになるかもしれない。それはそれで、面白いですよね」
◆萩野 公介(はぎの・こうすけ)1994年8月15日、栃木・小山市生まれ。28歳。生後6か月で水泳を始める。作新学院高―東洋大卒。12年ロンドン五輪400メートル個人メドレーで銅メダル、16年リオ五輪は個人メドレーで400メートル金、200メートル銀、800メートルリレー銅。13年日本選手権では史上初の5冠達成。21年東京五輪は200メートル個人メドレーで6位に入賞し、五輪後に現役引退。日体大大学院に進学し、競泳の解説なども務める。177センチ、71キロ。