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第99回箱根駅伝で55年ぶりの出場を果たした立大を支えたのは、女性主務・豊田桃華さん(4年)だ。陸上未経験ながら約2年半、マネジャーのトップとしてチームの箱根へと進む道筋を一番近くでサポート。今後は最上級生のマネジャーとなる妹の彩華さん、前田萌衣さん(ともに3年)らに、チームを託していく。選手と長い期間苦楽を共にした桃華さんが見た箱根駅伝に迫った。
55年ぶりの箱根路に挑んだ立大の仲間を、一番近くで見守った。桃華さんは運営管理車から、力走する選手を見つめ「本当に歴史が動くというか、変われるんだと思った。この景色を見せてくれて、本当にありがとう」と心から思った。
神戸高で野球部のマネジャーを務め「大学でも選手を支えたい」という思いがあった。立大は箱根駅伝本戦を目指す「立大箱根駅伝2024」を掲げており「私は関西出身なので、関東の大学に来たからこそでないとできないことがやりたい、という気持ちもありました」。実際に見学に行くと、選手たちは皆温かい。「この人たちと一緒に4年間過ごしたら楽しいだろうな、と最初は気軽な気持ちでした」と入部を決めた。
陸上未経験から覚えることは、とにかく多かった。「最初はどのペースが速いとかもわからなかったです。今は考えられないけど、選手が何メートル走っているかも、何周もしていると徐々にわからなくなる。ポンコツですよね(笑い)。いつも大パニックでした」。それでも、自身の「長所」でもある「誰に対しても変わらない対応」で選手とのコミュニケーションは積極的にとり続けた。
仕事に慣れ始めた2年時、駅伝チームのマネジャー部門トップである駅伝主務に就任した。「箱根駅伝予選会の1週間前に先輩から『主務をやって欲しい』と頼まれました。でもプレッシャーはすごかったです。一人では絶対に無理だと思ったので、最初の1週間を過ぎたあたりから“みんなで”をとにかく強調して取り組むスタイルでしたね」。
箱根を目指すチームを支えるのは、簡単ではなかった。毎日約1時間半かけてグラウンドに通った。当初は「選手が何を思い、どういうサポートを望んでいるかわからなかった」というが、一人一人との対話は、忘れなかった。信頼関係は、徐々に厚いものになっていった。
昨年10月の予選会を6位で突破。歓喜に沸いた一方で、本大会の経験者がいないことは不安だった。「頭では何回もシミュレーションしました」と選手情報や当日の動きなどが書かれた大量の資料を持って、上野裕一郎監督と運営管理車に乗車。沿道にいる部員と連絡を取り合い、監督に情報を伝える役割を担った。江戸紫のタスキが途切れることなく18位で大手町に戻った時は、ホッとした気持ちも大きかったという。
大仕事を振り返り、桃華さんは「本当にやり切ったと、自信を持って言えます」とすがすがしい表情。妹の彩華さんが「姉は本当にタフ。心が折れない」と話す強さも、2年間を務めきった要因の一つだ。
それでも、舞台に立つことだけがゴールではないこともわかっている。「自信を持った10人があんなに苦しそうにしている姿を見て、やはり箱根は厳しいと思った。次は頼んだという気持ちでした」。第100回大会での飛躍を託された前田さんは「自分たちも頑張らないといけない。出るからには常連校になる」と気を引き締めた。
上野監督が「チームの核」という任務を見事にこなした桃華さん。卒業後、テレビ局の番組制作に携わる。「『上野裕一郎』でドキュメンタリーをやりたい。それを監督に持ってくるっていうプレゼントがしたいです」。感謝の思いを胸に、新たな夢に走り出す。