武藤敬司は徹底した「リアリスト」、幻想に頼らない天性のプロレスセンス…記者コラム

最後の「プロレスLOVE」ポーズを決める武藤敬司(カメラ・小泉 洋樹)
最後の「プロレスLOVE」ポーズを決める武藤敬司(カメラ・小泉 洋樹)

 2・21東京ドームで引退した武藤敬司。38年4か月の戦いでプロレス界に刻んだものは何か?引退までのプロレス人生を描いたノンフィクション『【完全版】さよならムーンサルトプレス 武藤敬司「引退」までの全記録』(徳間書店刊)の著者でスポーツ報知の福留崇広記者が武藤敬司の「真実」を書いた。

 武藤敬司は、徹底したリアリストだ。

 引退試合を直前に控えたインタビューで内藤哲也を選んだ理由を「集客力を考えて内藤ならファンがチケットを買うって考えたんだよ」と明かした。

 力道山が開拓した日本のプロレスは、ジャイアント馬場、アントニオ猪木に至る系譜で純度100パーセントの「興行」であるが、いわゆる「金」にまつわる言葉をレスラーはタブー視してきた。引退試合の対戦相手を選んだ理由に「集客力」を口にすることは、かつてはタブーだが、興行をリアルに追及する武藤は平然と言い切った。

 常にトップレスラーは「最強」「王道」「闘魂」などのキャッチフレーズを掲げ常人離れした幻想でファンを魅了してきた。

 しかし武藤は、幻想に頼らなかった。リングに上がれば人を引きつける生まれ持った「天性」と類いまれなる「運動神経」、そして柔道で培った「強さ」という自らが持つリアルな現実でマット界に一時代を築いた。

 そして、常に「今」と葛藤した。「思い出と戦っても勝てねぇんだ」と過去の先人、さらに自らの過去の栄光に浸らず「スペース・ローンウルフ」「セクシーターザン」「nWo」と時代ごとにキャラクターを流転。2002年1月には新日本プロレスを離脱し全日本プロレスへ移籍した。すべては「今」を生き抜く術だった。さらに化身の「グレート・ムタ」は「武藤敬司」をも凌駕(りょうが)するほどのインパクトで「幻想」を否定し流転をいとわなかった。

 「レスラーたるものポジションを変えるのって怖いんだよ。だけど、オレは常に変えていったよな」

 変化を恐れないバックボーンは自らが持つ天性のプロレスセンスにあった。かつて武藤は私にこう言った。

 「オレは、プロレスなんかまったく知らない世界中のどこかへ行って、プロレスやったら、そこにいる人たちすべてを“何だこいつは!”と感動させる自信があるよ」

 掲げたキャッチフレーズは「プロレスLOVE」。それは、天性のプロレスセンスを持つ自らへの愛でもある。(福留 崇広)

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