春風亭一蔵、21日から新宿末広亭で初トリ 兄弟子・一之輔に並ぶ昇進後5か月で 伝えたい感謝の気持ち

スポーツ報知
真打ち昇進後5か月と異例の速さでトリを務める春風亭一蔵

 昨年9月に真打ちに昇進した落語家・春風亭一蔵(41)が新宿末広亭2月下席(21~28日)夜の部で昇進後初トリを務めることになった。

 昇進後5か月での初トリは、兄弟子の春風亭一之輔(45)に並び、所属する落語協会では記録が残る1977年以降で最速となる蝶花楼桃花(22年7月)の4か月に次ぐスピード記録だ。

 昨年末に打診を受けた時は鮮明に覚えている。赤坂見附駅から落語会のため赤坂会館へ向かう途中だった。協会の事務局長からの電話だった。「階段を落ちそうに、転びそうになりました。『うそでしょ!』というのと『うれしい!』というので、地面がぼやけて、足もとがおぼつかなくなりました」。思いもよらぬ知らせに通い慣れた道の景色が一変した。ボートレース好きの一蔵は「ボートで勝ったときの“震え”に似ていますね」と笑った。

 新宿末広亭は初高座を務めた思い出の場所でもある。最近は前座として楽屋入りする前の見習い時分に、師匠の会などで初高座を経験するケースが多いが、一蔵は入門直後、師匠の春風亭一朝(72)が病気療養となり、寄席が正真正銘の初高座になった。「『寿限無』です。覚えています。それしかできなかったですから。その新宿でこんなに早く…。幸せです」。第一歩を踏み出した因縁の場所で、初トリを務める喜びに浸っている。

 26歳で入門した一蔵にとって、落語との出会いは遅かった。高校卒業後に露天商を経て19歳で長距離トラックの運転手になった。帰りは深夜に一般道を10時間ほど運転して帰ることはざらだった。運転のお供に、最初は音楽を聴いていたが「いくら好きでも飽きるんです」。その後、ラジオに流れ、ラジオドラマにのめり込んだ。そしてドラマの後、ラジオから流れた落語番組に心を揺さぶられた。「これ面白いな」。図書館でCDを借り、運転中に口調をまねするほど、はまった。

 初めて生で落語を聴きに行った池袋演芸場で一朝に出会った。「面白い人だな」。数日後に行くとまた出演していた。10日ごとに番組が代わることも知らない青年は勝手に運命を感じていた。自身の誕生日(7月13日)に演芸場に行くと、一朝がトリで「片棒」を口演していた。鳥肌が立った。「長火鉢があって、番頭さんが居て、舞台が見えたんです。そして『この人のそばにいたいな』と思っちゃったんです」。8月には出待ちをして履歴書と思いの丈を吹き込んだCDを持参し、入門志願。CDの受け取りはやんわり拒否?されたものの入門を許された。

 「落語界のこともよく知らなかったし、一番弟子だと勝手に思い込んでいました」。入門してから総領弟子の6代目・柳朝、一之輔、三朝、一左が上にいることを知った。中でも一之輔からは多くのことを学んだという。

 「一之輔兄貴が、日暮里サニーホールの毎月の独演会がいっぱいになって、でかいハコの内幸町ホールに行こうとしていた時でした」。グングン売れて、二ツ目から真打ちに駆け上がっていく姿をそばで見ていた。しばらくは一門の前座が一蔵だけだったこともあり、かわいがってもらった。「『朝呂久(ちょうろく=一蔵の前座名=)行くぞ!』と…。収入面もそうだし、兄さんの仕事が一番多かったです。ソデで何千席も聴かせてもらいました」

 一之輔は折に触れ一蔵の背中を押してくれた。当時は柳家小三治さんが会長になり、それまでは3年だった前座修業の期間が1年ほど伸ばされていた。3年ほどたったとき一之輔から言われた。「通常だともう二ツ目になっている。二ツ目になれば勉強会もできる。ちなみに俺は前座の時から勉強会をやっていたぞ。お前もネタおろしの会をやればいいじゃないか」。一之輔が師匠・一朝から許可を取ってくれた。それから毎月のネタおろしが始まった。「ハッとしましたね。(それまでは)とにかく量を覚えようとはしていたんですけど、毎月ネタをアゲないといけない。二ツ目の兄さんはこんな大変な状況でやっているんだと…」。

 一之輔は一蔵に対して、「ちゃんとやれ!」と常々言っていたという。「一之輔兄さんは(古典落語に)現代を入れるじゃないですか? それはかなり高度なテクニックなんです。それをまねして、ただやればいいと思って、売れる最速だと勘違いして…。師匠にも『全然面白くないだろ』と言われました。当時は(言葉の意味が)分からなかったけれど、二ツ目になってからやり直しました。今は分かります」。アレンジをするにも基本がしっかりしないといけない。大事な“気づき”を教えくれた。

 理想像は師匠・一朝だ。「師匠のように寄席に出続けていたい。(師匠の落語は)さらっとしていて淡々とやっているけれど、お客さんを誰も疲れさせない。自分は声がでかくて、『どうか笑ってください』というタイプだけど、一生かけても師匠のように行き着くことができるのだろうかと考えます」。今回の初トリが決まった昨年末、長野・松本の真打ち昇進披露の落語会で一朝、一之輔に報告すると、2人はまるで自分のことのように喜んでくれた。その兄弟子に並ぶスピードでの初トリ。「自分には実力がないのはちゃんと分かっています。人当たりの良さはあるけど…。チャンスをもらったので、一生懸命務めたい」と自然体で臨む。(高柳 義人)

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