千早茜さん、作家原点は幼少期のアフリカ暮らし「日本語の本を自分で書いて増やそう」…「しろがねの葉」で直木賞受賞

スポーツ報知
シルバーのシューズでインタビューに応じた千早茜さん

 第168回直木賞(2022年下半期、日本文学振興会主催)は千早茜さん(43)の「しろがねの葉」(新潮社)と小川哲さん(36)の「地図と拳」(集英社)が受賞した。千早さんは08年にデビューしてから14年、3度目の候補入りで直木賞を射止めた。小説家としての原点は小学生時代の大半を過ごしたアフリカ・ザンビアの地にあるという。(瀬戸 花音)

 直木賞受賞から1週間。朝、サンドイッチをテイクアウトしてきて、恋人に「目玉焼きも食べる?」と聞いた。「いるいる」という返事。フライパンに油をひき、冷蔵庫を開ける。そこで、はたと気づいた。卵がない。「私はとても食いしん坊で、私にとって冷蔵庫の中身を把握できていないっていうのは異常事態なんです。やばいって思いました。人生で一番忙しいかもしれません」

 受賞作は、戦国末期の石見銀山を舞台に、男たちに交ざり、銀堀になることを目指す少女・ウメの生きざまを描く。天才山師・喜兵衛に拾われたウメだが、年月がたつとともに女という性が際立ち、行く手を阻む―。

 きっかけは2011年。たまたま遊びに行った石見銀山で「石見の女性は3回夫を持った」という話を聞いた。「つらい状況でもなぜ生きるのか、書いて考えてみたい」という思いが芽生えた。

 時代小説を書くのは初めての試みだったが、現代小説と特別な差異は感じていない。「みなさんがイメージする時代物って権力者の歴史じゃないですか。時代のうねりにいる人たちの歴史とか。本作はそういうものとはちょっと違って、どこかの時代で普通に生きていた名も残っていない人たちの話を書きたかった。人間は500年やそこらで、感情が消えるわけでもないし、味覚が変わるわけでもない。だからそんなに現代物と変わらないんだなとは感じました」

 小学生のころ、国語の教師だった母に毎日日記を提出していた。そこに「茜は作家になればいいと思う」と書いてあった。小学1~5年まで過ごしたアフリカ南部のザンビア共和国で書いた日記に刻まれた原点のかけらだ。「父の仕事の都合で行きました。日本とは全く違う生活だったんですよね。現地のインターナショナルスクールに通っていたんですけど、家にプールとバナナ林があって、犬が放し飼いで、使用人とか門番がいるみたいな生活だったので。今はちょっと…没落した貴族みたいになってます(笑い)。だから不思議な感じです。向こうでの生活は夢みたいな感じ」

 小学1年生の1学期だけは日本の学校に通っていたが、なじめなかったという。「学校が嫌で嫌で勝手に家に帰っていた」千早さんだが、ザンビアの学校は「楽しい」と感じた。特に好きだったのはアートの授業。「日本みたいに『今日はお絵描き』とか決まってないんですよ。作業室に行って、『何を作りたい?』って聞かれて、『〇〇を作りたい』っていうと、それだったら絵を描いた方がいいよとか、それだったら立体作品にした方がいいねとか、自分がやりたいことによって、技術とか画材や道具を教えてくれるっていう授業でした。自分がしたい表現をするためにどうすればいいか先生と一緒に考える時間がある。それはすごい楽しかったです」

 ザンビアで好きだったのはアートのクラスともうひとつ、日本の祖母から毎月5冊送られてくる本を読むことだった。「月5冊なんかすぐ読んじゃって、次の月を待たなきゃいけない。日本には本が少ないんだなって思ってたんです(笑い)。あまりにも日本語の本が足りなくて、将来は自分で書いて増やそうと思ってました」

 あれから30年以上の月日を経て、直木賞作家となった。13年に「あとかた」で直木賞候補になってから9年、3度目の候補入りでの受賞。「『直木賞いつ取れるの?』と聞かれなくなったのは楽ですね」と、さらっと話す千早さん。自分にとって、物語を書くということは「自分のなかの疑問と向き合うことであり、世界の美しさや不条理さを記録するということ」と表現する。「心を鈍磨させず、一生物語を書き続ける」。真っすぐに放った言葉には確かな芯を感じさせた。

 ◆千早 茜(ちはや・あかね)1979年8月2日、北海道生まれ。43歳。2003年、立命館大学文学部卒。08年「魚神」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。同作で09年に第37回泉鏡花文学賞も受賞。13年「あとかた」で第20回島清恋愛文学賞受賞、直木賞の候補に。14年「男ともだち」で2度目の直木賞候補。21年「透明な夜の香り」で第6回渡辺淳一文学賞受賞。23年「しろがねの葉」で第168回直木賞を受賞。

 ■漫画大好き、はまっているのは「チェンソーマン」

 年末からは直木賞の選考会までに直近の仕事を終わらせようと思って、本を読む時間がなかったんですけど、はまっているのは漫画「チェンソーマン」(集英社)です。最近の取材でも、一問一答の6問のうち3問はチェンソーマン関連で答えちゃったり(笑い)。すっかりはまりましたね。

 漫画、大好きなんですよ。漫画読んでる時が唯一、心が自由になって、「すごいすごい! こんな表現ができるの?」って。「ゴールデンカムイ」がずっと好きだったんですけど、終わってしまったんで。は~ってなってる時に「チェンソーマン」を読み始めたんです。

 独特の地獄の描き方だったりと表現力がすばらしいです。もちろんジャンプらしい主人公はいて、少年漫画の流れにはちゃんと乗ってるんですけど、ひとつひとつの悪魔の描写とかが芸術的だなっていう感じはありますね。

 好きなキャラクターはマキマさんです。マキマさんが、命乞いをしてきた相手に向かって「死体がしゃべってる」って言って、にこって笑って殺すシーンがあって。そのセリフが最高に好きで、いつか弁明してくる相手に向かって言いたいんですよね。(談)

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