バラエティー「るてんのんてる」で“震災ドラマ”！？　読売テレビディレクターが込めた思い「明日って当たり前じゃない」

　お笑いコンビ・フットボールアワーが司会を務める大阪・読売テレビ「るてんのんてる」（金曜・深夜０時３０分、関西ローカル＝ＴＶｅｒ、ｙｔｖ　ＭｙＤｏ！で見逃し配信あり）は“なんでもあり”が売り物の実験的バラエティーだ。

　同局ディレクターが温めてきた企画を実現させるチャレンジ番組。今月１０、１７日は２週にわたって「関西を舞台にしたガチのドラマ」が放送された。

　題名すらないドラマは前編、文化祭を控える高校生の男女（田中亨、莉子）の恋の進展だけでなく、時代を想起させるアイテム存在や「運命の時まであと〇〇」のテロップなどサスペンス要素もあり、はやりの「ドラマ考察」でフットの後藤輝基、岩尾望もスタジオで“ガヤ”の副音声を入れながら食い入るようにドラマを見つめた。

　そして１７日深夜に後編が放送された。前編の種明かしをしながら迎えた“謎の結末”は、轟音（ごうおん）とともに画面が突然暗転して「日常」との題名テロップで終幕する。「運命の時」とは１９９５年１月１７日の阪神淡路大震災だった―。

　通常のドラマ枠なら恐らくやれない表現方法。予期せぬラストに「えっ…」「何それ」と絶句したフットの２人だったが、次第に納得の表情へ。放送終了後のＳＮＳには「鳥肌」「もしかして…って思ったけどラストぞっとしちゃった」「言って良いか分からないけど面白かった」「ゾワッとするけど、モヤッともするなぁ」「急にこんなん。無理や。」などの賛否両論の声が上がった。

　今回の企画を担当したのは、読売テレビ入社１３年目の加藤崇ディレクター。「あさパラＳ」（土曜・前９時２５分）、「グッと！地球便」（日曜・前１０時２５分）などを担当し、制作局中心のキャリアを持つが、ドラマを手がけるのは初めてだった。

　「阪神大震災のドラマを作りたい。それが入社の動機にもなっていました」と加藤Ｄ。脚本はお笑いユニット「ザ・プラン９」の久馬歩（お～い！久馬）に依頼した。「『最後が一番やりたいことなんです』とお伝えして。久馬さんも大阪におられたので、割とスッと受け入れてもらえました」と話す。賛否の声には「いろんなやり方がある中、これを選びました」と自信を持って答えた。

　加藤Ｄは神戸出身。小学１年生の時に被災した。住んでいたマンションが半壊。約２週間の避難所生活を経て、大阪の祖父の家に３か月、身を寄せた。幸い身内に不幸はなかったが「同級生が亡くなったり、散り散りになったり…。人生が変わった出来事でした」。幼い頃に感じ取った“真実”を伝えるためにテレビマンへ。「明日って当たり前じゃないんだよっていうことが一番、言いたかったことですね。人間って結構、後回しにしがち。それも普通の日常だと思うんですけど、本当に急に途絶えることがありますから」。発生から四半世紀が過ぎ、風化させまいとの思いもある。

　ドラマの登場人物も、思いを行動に移せず、ためらっている人ばかり。謎の男役で出演した次長課長・河本準一は、前編放送前日の９日に「こうもとじゅんぞう　次長課長」名義のツイッターで「観て、そしてみんなで考えよ。踏み出す勇気。」と、意味深につぶやいていた。

　バラエティーの枠で、物語の面白さも加味しながら、メッセージ色も押し出した意欲作。「出演していただいた皆様も『なるほど』と深い、深い感じになってましたね。若い人に見てもらいたい。高校の設定もそういう意味です。２８歳以下の方は阪神大震災を知らないので」と加藤Ｄ。１月に文化祭？　という違和感はあったが「その例はあるそうです」とのこと。

　このドラマには続きがあり、番組最後に２８年後の今が流され、救いになっている。「被災された方は今、こういう生き方をしてるんだよ、みたいなドラマをまたできたらいいですね」。地上波の危機が指摘されている昨今だが、テレビのプロにしか作れない表現はまだ、たくさんある。そう改めて感じた深夜番組だった。（大阪編集センター・筒井　政也）