◆歌舞伎座「二月大歌舞伎」(25日千秋楽)
私は今、深いため息と複雑な感慨を抱いている。第3部の通し狂言「霊験亀山鉾」、通称“亀山の仇討(あだうち)”で片岡仁左衛門が武士・藤田水右衛門と、うり二つの町人・古手屋の八郎兵衛2役を勤めていて、これを一世一代と銘打っているからだ。
一世一代とは舞台納め、転じて引退の意味があるが一つの役を一生の仕納めとして立派な芸を見せる意味がある。来月に79歳となる仁左衛門は仇討物の傑作で、残忍な冷血漢の主人公をこれを限りとするのである。
見せ場は多い。最初の出が兄を闇討ちにされた弟を果たし合いで返り討ちにする序幕・第2場。白塗り、黒の着流し。大拍手が響いた。ギロリと相手を睨(にら)む凄(すご)み。刀を上段に構えた見得(みえ)。「いよ、松嶋屋!」と声を掛けたいステキな姿だ。
さらに、なぶり殺しで不敵な笑い、勢いよく走る花道。以前の足の不調は改善したという。
昨年2月、「義経千本桜」の知盛も一世一代だった。この時、役を勤める気持ち、打ち込むエネルギーの使い方が大切でひと月興行を演じ続けるのは体力的にも厳しいと明かしていた。「前の方が良かったねと言われないうちに」と決めたそうだ。しかし、もったいない。とはいうものの、またかの一世一代も、ありですぞ。(演劇ジャーナリスト)
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