日本代表MF三笘薫(25)が1月29日のFA杯第4回戦で奪った決勝弾が大きな話題になっている。1-1で迎えた後半ロスタイム2分という時間帯。しかも相手はクロップ監督率いる昨季のFA杯王者のリバプール。試合終了間際という時間帯で奪った劇的なゴールで強豪に引導を渡したということだけでもすごいが、なんといっても特筆すべきはそのクオリティだ。
信じられないようなゴールだった。ブライトンが右サイドでつかんだFKが起点だった。このフリーキックが逆サイドにいたエストゥピニャンに渡って、左利きのサイドバックが自慢の左足で絶妙のクロスを逆サイドにいた三笘に送った。この場面で日本代表MFが常識はずれのスキルを見せた。最初のタッチで浮かせたボールをセカンドタッチで手前に引き寄せると、間髪入れずに右足のアウトサイドを突き刺すように合わせて、リバプールのゴールネットを激しく揺らす決勝弾を叩き込んだ。力とスピード満点のプレミアで、珍しくも超絶的な技術が光った素晴らしいゴールだった。
もうすでに多数の動画がネットに上がっていて、日本でも三笘の勇姿を見て、心躍らせたファンが大勢いることだろう。後に英国での実況を聞いたが、ゴールの瞬間、アナウンサーが「brilliant foot! what a finish!!」(素晴らしい足技!なんてフィニッシュだ!!)と叫んでいた。
しかし筆者が本当にしびれたのは、試合直後に三笘の発言を聞いた瞬間だった。それは右足だけで行った奇跡のような3タッチについて聞いて返ってきた言葉だった。
「狭いんで、セカンド(2度目のタッチ)で打てれば良かったんですけど、相手が(ブロックに)来たのが分かったので、(シュートを)キック・フェイントに変えて、その後はもう咄嗟に蹴った感じです」
正直言って震撼した。つまり三笘はあの瞬時に、相手が飛び出してきたのが見えたことで、セカンドタッチでシュートを打つという決断を変更していたのだ。感覚だけではなく、意図的に動いて決めたスーパーゴールだった。確かにビデオを見ると、自陣でのFKからの流れで、PA内は守りを固めたリバプールの選手で混み合っていた。エストゥピニャンからクロスが通ってファーストタッチをした瞬間、右サイドの奥にいた三笘はフリーであったが、シュートを打つと決めていたセカンドタッチの次の瞬間、イングランド代表DFゴメスがそのボールめがけて突っ込んできた。ここで三笘は予定を変更、絶妙なタッチでボールずらすと、ゴメスに続いてFWヌニェスも距離を詰めて来て、残りわずかとなったスペースを突き、3つ目のタッチを”咄嗟”に決めてシュートを打った。
もちろん、高度な技術がなければ実現しないゴールだが、それよりも、あの混み合ったPA内で相手の動きを完全に見切った『動体視力』に驚愕した。これはいかにも筆者のオールド・タイマーらしい連想で申し訳ないが、この言葉を聞いて真っ先に頭に浮かんだのが、V9巨人の監督で、現役時代『打撃の神様』と異名を取った川上哲治氏が「ボールが止まって見える」と絶好調時に語った伝説的逸話だった。もちろん、見えても打てなければ話にならないが、川上氏には神様的な技術があった。それと同様、三笘には竜巻のように激しく高速で移り変わるプレミアの攻防戦を、まるでスローモーションのように見て、しかもそこで最も効果的なタッチを生む技術も持ち合わせていたのである。
翌日、三笘のスーパーゴールに対して「MAGIC」(魔法)という単語が英各紙に踊ったが、本人に話を聞いて、この魔法の影には25歳日本代表MFの信じがたい、神のような動体視力が存在していたことが分かった。(英国通信員・森昌利)