やはり、そう決着したか―。どこか、そう納得している自分がいるプロレス界の「ゴールデン☆スター」飯伏幸太(40)の新日本プロレス退団だった。
1日、新日本プロレスは初代IWGP世界ヘビー級王者・飯伏の契約期間満了による退団を発表。直後に飯伏も自身のツイッターを更新し「色々な葛藤はありましたが、新日本プロレス様ありがとうございました」「自分は契約は更新せずフリーという立場を選ばせていただきました。長いようで凝縮された期間をありがとうございます。感謝しております」「これからは自分の行く 道 を見守っていただけたらと思います! 何が起きるか分からない」とつづった。
今年最初のツイートでも「今年はやるぞー! あと1ヶ月待てば。自由が さぁ、どれをしようかな 1か2か3か4か。さぁ、どれ?」と、1か月後に新日との契約満了を迎えることを示唆していたため、どこか予想されていた退団劇だった。
しかし、飯伏の退団表明の言葉を読んだ私には一つ、大きな疑問が残った。
「心配し続けたファンへの言葉はないのか」―。
実際、この日の飯伏のツイッターには、一部、「意地でも新日本プロレスで復帰してほしかったな。『逃げない、負けない、諦めない』とは?」、「新日本で闘って欲しい選手も沢山いたので寂しさもあります」などの疑問の声もあったが、大部分は「飯伏さんの新たなスタートを全力で応援させていただきます」、「飯伏選手のこれからをめちゃくちゃ楽しみにしてます! 入場テーマ曲も新しくなりますかね? 色々楽しみです これからも応援してます」、「これからは飯伏さんの行きたい場所、戦いたい場所、相手と、自由に楽しく戦えますように」などの激励の声だった。
本当に優しいファンに見守られた飯伏は幸せだなと思う一方、こんな形での幕引きでいいのかとも思う。
飯伏は連覇を狙った21年10月の「G1クライマックス31」優勝決定戦のオカダ・カズチカ戦でコーナートップからの大技・フェニックス・スプラッシュを仕掛けたもののかわされ、肩と顔面をリングに強打。無念のレフェリーストップ負けを喫した。右肩関節前方脱臼骨折及び関節唇損傷の重傷と診断され、現在もリング復帰がかなわず、リハビリを続けている。
昨年は他団体への無断参加とその後の自身のツイッターでの団体への批判、暴露発言により新日から選手契約違反を理由とした3か月の減俸10%の処分を受けた。新日との選手契約は継続したものの1年4か月に渡ってリングに上がれない状態が続いてきた。それでも昨年行われたテレビ朝日系「プロレス総選挙」では、14位に食い込む健闘を見せてきた。
21年4月にウィル・オスプレイに敗れるまでIWGP世界ヘビー級初代王者として昨年創設50周年を迎えた老舗・新日のトップに君臨していた日本プロレス界有数のスターは、この1年間、団体から処分を受けるほどSNSで迷走。突然の引退匂わせなど、多くのファンを戸惑わせ続けてきた。
退団までの迷走劇でよく分かる子供っぽさも残す純粋そのものの男・飯伏に初めて1対1でインタビューしたのは5年前のことだった。
2018年2月9日、出演するミュージックビデオの撮影直前というハードスケジュールの中、真っ白のベンツクーペで都内のスタジオに現れた飯伏は70分間に及んだロングインタビューの中でこう言った。
「一番見ている人が多い舞台が新日本プロレス。だから、新日を選んだし、プロレスの歴史を変えたいと思ってます。絶対に変えられるって自信があるんで」―。
その言葉通り、短期間で飯伏は結果を出して見せた。19、20年と2年連続で最強シングル決定戦「G1クライマックス」を制し、自身の希望を通す形でIWGPヘビーとインターコンチネンタル2つのベルトを統合したIWGP世界ヘビー級の初代王者ともなった。
この7年間、その歩みを見届けてきた私には日本最強、最大団体での飯伏の歩みが本当にまぶしかった。「飯伏がいれば、プロレス界は安泰」と言った棚橋弘至や「飯伏は今までいなかった、ちょっと特別な存在」と言う中邑真輔の言葉が、そのまま証明されていく日々が本当にうれしかった。
確かに、5年前のインタビューでも「小学校を卒業する頃には今やっている技は全部できました」と明かした抜群の身体能力とキックボクシングでもトップに立った打撃力を兼ね備えたハイブリッドレスラーの未来は新日を離れたとしても前途洋々だろう。
DDT時代からの盟友・ケニー・オメガが在籍する米トップ団体・AEW(オール・エリート・レスリング)や過去に年俸1億円で誘われたこともあるWWE、国内でも恩人・高木三四郎社長率いるサイバーファイト傘下のDDTなど、受け皿は複数あるだろう。
それでも、私は団体の歴史、規模、選手層の厚さ、スタッフの熱意。すべての面から新日こそが飯伏が40歳からのレスラーとしての円熟期を過ごすのにふさわしい団体と思ってきた。
だからこそ、SNSを使って一方的な言葉を放ったことを、その手法を反省し、肉声で本音を明かした上で、どこから見ても自身を一段グレードの高いレスラーに成長させてくれた舞台・新日との和解の道を探ってほしかった。
だが、そんな言葉はもう届かない。だからこそ、勝利後のリング上で「僕は逃げない、負けない、諦めない、そして裏切らない!」と言い続けてきた飯伏に言いたい。
「自由」を求め続けるあなたのプロレスラーとしての生き方も分かっているし、今回の再出発を私も一記者として応援する。ただ、その前に、ずっと心配し続けてきたファンだけは「裏切らずに」自分の肉声で思いを説明して欲しい。それは新日のリング上でなくてもいいから。
この7年間、その華麗なファイトに、ずっと魅了され続けてきた「ゴールデン☆スター」に言いたいのは、それだけだ。(記者コラム・中村 健吾)