手放してはいけない人材がフジテレビを去った夜…三田友梨佳アナ退社で思い出す3年前の木村花さんへの言葉

スポーツ報知
この春に出産予定。3月いっぱいでフジテレビを退社する三田友梨佳アナウンサー

 生まれ持った華やかなルックスや大学ミスコンなどの優勝歴があれば、何千倍の倍率を乗り越えてキー局のアナウンサーにはなれるかも知れない。だが、報道、スポーツ番組といった各局の看板番組を任されるまでには、どれほどの努力が必要なのだろう―。

 そんなことを考えさせられた1人のトップアナの退社劇だった。

 フジテレビの三田友梨佳アナウンサー(35)が1月29日に放送された同局系情報番組「Mr.サンデー」(日曜・午後10時)で同番組“卒業”を発表した。

 生放送の最後に2011年入社の同アナの新人時代始め報道番組のキャスター時代、「Mr.サンデー」アシスタント時代などを振り返るダイジェスト映像が流された。

 MCの宮根誠司氏(59)は「本当にお疲れさまでした」と声をかけた後、「三田さんの一切、妥協しない勉強とか取材力、今日もメモを持ってらっしゃいますけど、幾度と助けられました。今日で『Mr.サンデー』卒業、さらにはフジテレビも退社される。大きな決断されましたよね」と話しかけた。

 これを受け、「まずは番組の貴重なお時間、私のことで割いていただいてすみません。本当にありがとうございます」と頭を下げた三田アナ。

 「4年間、『Mr.サンデー』を担当させていただきまして、本当にありがとうございます。毎週、大先輩である宮根さんから学ぶことがたくさんありまして、コメンテーターの皆さんの話の中からのたくさんの気づきや時には自らを変えるような、本当に勉強になる4年間でした」と笑顔で続けると、「そして、今日が私にとって、フジテレビアナウンサーとして最後のテレビ出演になります」と初めて口にした。

 「2011年に入社してからの一つひとつの出会いと学びの機会に感謝の気持ちでいっぱいです。今後については12年間は仕事を優先して走り続けてきましたので、これからは家族の時間をより大切にしながら、自分のペースでキャリアも築いていけたらと思っております。これまで本当にありがとうございました」と、頭を下げた。

 そして、この後、同アナの仕事に対する姿勢を象徴する言葉が宮根氏の口から飛び出した。

 「お世辞じゃなくて、三田さんほど勉強するアナウンサーって、日本にいないと思いますよ」―。

 この言葉に対して「そんなことないです。まだまだ課題も残ってますので、これからも私自身、研さんを積み重ねていきたいと思います」と恐縮した三田アナ。宮根氏に「子育てもあると思いますが、落ち着いたら、お互いフリー同士で仕事をしましょう。12年間、お疲れさまでした」と「フリー」という聞きようによっては微妙な言葉で送られ、「ありがとうございました」と最後まで笑顔で返した。

 3月31日付で同局を退社することを発表した三田アナ。現在、20年に結婚した一般男性の夫との第1子を妊娠中で、この春に出産予定。当面は出産や育児に専念し、その後の活動については未定というが、この夜、宮根氏が指摘した「三田メモ」のすごさについては、私もアナウンサーから現在は同局の広報の顔に転身した春日由実さんから「報道の三田とスポーツの宮司(愛海)のメモはすごいですよ」と、何度も聞かされていた。

 その勤勉ぶりと仕事への姿勢以上に私が心を揺さぶられたのが、その温かいハートだった。

 2020年5月25日深夜に放送されたニュース番組「Live News α」。メインキャスターとして、同年5月23日に急死した女子プロレスラー・木村花さん(享年22)のニュースを報じた三田アナが大きな瞳でカメラを見つめて語りかけた。

 「テレビに出る人にも心があります。ですが、SNSだけに全ての原因があるとは言えないと思います。私自身、テレビをつくる身として、どうしたら防げたのか、どれだけ辛い思いをされていたのか、番組とはどうあるべきなのか、しっかり考えていきたいと思います。心よりお悔やみ申し上げます」―。

 用意された原稿を読むのではなく、一度も目をそらさず、最後に深々と頭を下げた、その姿。そこには局を代表して、言葉を紡ぎ出そうとする覚悟があった。

 花さんの母でプロレスラーの木村響子さんが昨年12月、フジテレビと制作会社に対する損害賠償訴訟を起こすなど、いまだにくすぶり続ける花さんの死。同局放送の恋愛リアリティー番組出演時の言動を発端にネットの誹謗中傷にさらされた果てのその死の取り上げ方に対して、同局がどこか及び腰だった中、用意された原稿を読むのではなく、あくまで自分の生の言葉で、自分の正直な思いを口にした三田アナの姿。その毅然たる表情に私の心は揺さぶられた。

 そこには「SNSだけに全ての原因があるとは言えないと思います」と言う冷静な分析と自局の番組作りへの冷静な反省、「どれだけ辛い思いをされていたのか」と言う木村さんへの思いやり、「番組とはどうあるべきなのか、しっかり考えていきたい」と言う、これからの番組作りへの決意まで全てが盛り込まれていた。

 振り返れば、19年3月に行われた同局の番組改編発表会見で「Live News α」のメインキャスター就任が発表された際も三田アナは「これまで私は8年間、情報番組を中心に担当してきました。報道番組のキャスターというのは新たな分野でのスタートとなりますし、身が引き締まる思いです」と思いを自分の言葉で語っていた。

 さらに「どんな分野でも私のアナウンサーとしての信念には変わりがありません。これまで通り、自分の言葉に責任を持って(視聴者の)気持ちに寄り添いながら、心のある番組を作っていけたらなと思っています」と、真剣そのものの表情で続けていた。

 キャスター就任時の決意表明通り、「自分の言葉に責任を持って」花さんの死に対する自局の責任を、きちんと口にした三田アナの姿に私は「三田友梨佳アナがフジテレビを救った夜…心に響いた木村花さんの死への責任感あふれる言葉」と題したコラムを書いた。

 そこに集まったコメント欄には、1人の人間としての同アナの言葉への共感の声が並んでいたのを昨日のことのように覚えている。

 そんな人間性に加え、不断の努力で身につけた自分の言葉で語る「伝える力」を持ったエースアナが今、お台場を去って行く。

 女性としての命がけの大事業・出産と子育てを優先する三田アナの決断を私は全面的に支持する。

 だが、一方で昨年6月に同局黄金時代に辣腕を振るっていた港浩一氏(70)を新社長に迎え、復活に向けて動き出したフジにとっては、なんて痛い人材流出なんだろう。心の底からそうも思った。(記者コラム・中村 健吾)

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