南果歩、子育ての中の大人も癒やしたい…数十年前に息子のために書いた詩がコロナ禍きっかけに絵本に

スポーツ報知
仕事で疲れた時は「詩や絵本から力をもらっています」と語った南果歩(カメラ・矢口 亨)

 女優の南果歩(59)が、初めて手掛けた絵本「一生ぶんの だっこ」(講談社、1650円)が、子どもから大人まで楽しめると話題を呼んでいる。かつて、南が息子のために書いた詩を絵本にした本作は、子熊の「ぼく」が、さまざまな経験をするたびに、お母さん熊に抱っこをしてもらう物語。「読み聞かせをする大人たちにとっても癒やしになれば」と作品に込めた思いを語った。(奥津 友希乃)

 大胆な構図で描かれた色彩豊かなイラストと、安心感を与える優しい詩が心をじんわり温かくさせる。

 もともと絵本は、南にとってひとり息子と心をつなぐツールだった。

 「息子には小学校に入る前くらいまで、毎晩絵本3冊を読み聞かせしていました。不思議と子どもって同じ本を何度も持ってくるんですよね。なかなか根気のいる作業でもありましたが、自分にとっても好きな言葉や絵があって、楽しいひとときでもありました」

 息子が小学校に入った後も、ボランティアで読み聞かせを行った。2011年の東日本大震災時には、支援物資と絵本を手に22か所の避難所へ足を運んだ。

 「私自身、自分の仕事に無力感を感じていたのですが、被災地ですごく意外なことを言われて。皆さんが『ドラマに出てね』とか『ニュースはたくさん見ている。本当はドラマや映画が見たい』と口々におっしゃって。『こんなに大変な状況でも、人は物語を求めるんだ』とはっとさせられました」

 どんな時もエンタメの歩みを止めない―。その思いで女優業の傍ら、16年の熊本地震直後も現地で読み聞かせを行うなど精力的に活動した。だが、コロナ禍で大きな壁にぶつかった。

 「感染対策のこともあり、直接読み聞かせができなくなってしまった。リモートでやってみたのですが、映像に残ってしまうことや、不特定多数の人に読み聞かせるとなると、絵本の出版元から利用許可をもらうハードルがすごく高くて。歯がゆい思いをしていました」

 打開策を考える中、ふと数十年前に原稿用紙に書いた物語を思い出した。引き出しの奥から見つかったのが、本作の元となった「一生ぶんの だっこ」のタイトルが記された詩だった。

 「息子が成長し、もう抱っこさせてもらえないだろうと感じた時期に『一生分の抱っこをしてあげることで、この子が新しい冒険に出られるのかな』と思いを込めて書いた詩でした。自分の詩なら許可もいらないし、ちょうどコロナ禍でソーシャルディスタンスが日常の中に入り込んできていたので、今の時期にぴったりだなと思ったんです」

 「これは絵のない絵本です」―。読み聞かせると、温かな親子の絆を感じさせる詩は大反響に。「絵本にしてほしい」と要望が多数寄せられ、21年から初めての絵本作りに取り組んだ。

 絵本の肝となるイラストは、かねて好きだった東京出身で、世界で活躍するアーティスト、ダンクウェル氏にオファーをした。

 「絵本にする前から、何となく熊の親子の物語だと決めていました。絵は、ダンクウェルさんのカラフルで躍動感あるタッチが必要だと思い、直接お願いしに行きました。ダンクウェルさんも絵本は初めてだったのですが、詩をすごく気に入ってくださって。私も詩をブラッシュアップして1年間で完成しました」

 昨年12月8日に発売されてから5日間で重版がかかる話題作に(現在2刷)。子どもだけでなく、作中の「いたいときはないてもいいんだよ。おとなでもこどもでも ないていいんだよ」と語り掛ける詩に、胸を打たれる大人も多いはずだ。

 「私自身は仕事人間だったので、もともと結婚も母親願望もゼロの状態で子育てに飛び込みました。シングルマザーで、仕事と子育ての両立は本当に忙しかったのですが、子育ては自分育てのような時間でもありました。たぶん今、そういう思いをしているお母さんやお父さんがいっぱいいるはず。そんな大人たちが、この絵本を読み聞かせる中で、癒やしを感じてくれたらうれしいです」

 デビュー作が反響となり、改めて絵本の持つ力を実感している。

 「やっぱり絵本のいいところは、子どもの時に親しんだものを親になって再開するという、一生パーソナルな関係が続くところだと思います。世代や性別、言語を超えて伝わるものもあるので『一生ぶんの だっこ』もゆくゆくは英語版を出したいなと思っています」

 夢は、自分の心が躍る表現を追い求め、一生を全うすることだ。

 「これまで、お芝居が第一で、他のことはやらない方がいいという自分の暗黙のルールもありました。でも今は、本業の俳優を軸に、執筆活動やボランティア、あとは趣味のバンド活動もやりたい。絵本の次回作も構想を考えています。いろいろと姿を変えた表現を、思いつくままにやりたい順にやっていきたいです」

 ◆南 果歩(みなみ・かほ)1964年1月20日、兵庫県生まれ。59歳。84年に映画「伽(イに耶)子のために」のヒロイン役オーディションに合格しデビュー。90年に「夢見通りの人々」「螢」などでブルーリボン賞助演女優賞受賞。私生活では作家の辻仁成と95年に結婚。1児を出産し、2000年離婚。俳優の渡辺謙と05年に結婚し、18年離婚。16年に乳がんの手術を経験した。著書にエッセー「乙女オバさん」(22年)がある。

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