【番記者の視点】「カズさん」が背中で見せた、現状に満足しない大切さ…ポルトガルに出発した「クラシックカー」にBoa sorteを

スポーツ報知
ポルトガルに向けて出発した三浦知良

 失礼ながら「カズさん」と呼ばせてください。

 自分の目に、カズさんの姿を焼き付けておきたかった。当面、国内最後の実戦となるだろう21日の横浜FCでの練習試合。後半26分のゴールで、いい写真を撮った自信もあった。だから最後の5分は、カメラを置いた。2点目を狙う55歳は、誰よりも大きな声でボールを呼び、チャンスを逃すと誰よりも悔しがっていた。

 私は今年、04、05年以来となるサッカー担当記者に戻った。当時は関西4クラブを担当し、37歳だったカズさんは神戸にいた。「クラシックカーは、メンテナンスに時間がかかるからね」ガウン姿でそう笑って、白いプレハブのクラブハウスに消えた。当時2年目23歳の私はじめ担当記者は、ベテランが体のケアを終えるのを待って、毎日話を聞いた。筋トレ室から、中森明菜の曲が漏れ聞こえてきたのも、いい思い出だ。

 初めて会ってから19年。記者が42歳になっても「クラシックカー」は、走り続けていた。いつもなら暖かいグアムで自主トレをしていた時期に、J1定着を目指す横浜FCの宮崎キャンプに参加した。ケガのリスクだってあった。それでも若手の中に飛び込み、時には接触で倒れ、立ち上がってボールを追った。

 その姿が横浜FCイレブンに与えたのは、現状に満足しない大切さだった。練習後、一緒に走りながら経験に耳を傾ける選手も日替わりで現れた。カズさんのことを「ヴェルディの先輩」と呼んだのは、東京V下部組織出身の25歳MF井上潮音。「あの年齢でも『自分はまだまだだよ』と言っていたのを聞いて、学ぶものが多かった」と、濃密な2週間に感謝した。

 ネット上では、今回の挑戦に否定的なコメントがある。現役を続けることにもだ。でも、この2週間の、リスクを負ってでも体を仕上げた姿を見て、半年にかけるプロの矜持を見た。これこそが「キングカズ」たるゆえんなのだ。

 ポルトガルへの出発前、羽田空港で語った気持ちにそれが現れている。

 「自分がどのぐらいできるか、どのぐらい試合に関われるかっていうのは本当に全く予想もつかない。もしかしたら何も起きずに帰ってくるかもしれませんしね。半年という本当に短い期間なんでね。そこで何かを起こすっていうのは大変なことですけど、それだけやりがいもありますので、毎日毎日、1日1日、1回1回、練習を本当に大切にして。自分自身、得るものが大きければいいなと思います。試合に出る、出ない、そういう葛藤もあると思いますけど、それも楽しみたいなと思います」

 そう言い残し、26日の午前1時過ぎ、「クラシックカー」は羽田空港から飛び立った。カズさんの新天地での幸運を祈ります。Boa sorte。(横浜FC担当・田中 孝憲)

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