陸上女子1万メートル、ハーフマラソン日本記録保持者の新谷仁美(積水化学)が15日、ヒューストンマラソン(米国)で2時間19分24秒の日本歴代2位の記録をマークし、優勝した。ペースメーカーを務めた新田良太郎コーチは正確なペースで新谷をサポートし、レース中のツイッターではトレンド入りするほど話題になった。新谷は9月のベルリンマラソンで再度日本記録更新を狙う意向で新田コーチもまた、ペースメーカーを務める。“チームでつかむ日本記録”へ新田コーチが、熱い思いを語った。
日本記録にあと12秒、届かなかった。新田コーチは「シンプルに、届きそうで届かなかった秒差だったので悔しかった。今回36キロまでペースメーカー務めたんですけど、その距離があと1キロでも多かったら、もしかしたら更新できたんじゃないかなっていう気持ちは、正直あります」。
5キロを16分25秒前後(プラマイ5秒)で走り、最低30キロまで、あとは体力の続く限り引っ張るプランだった。実際のペースは5キロ16分25秒、10キロ16分20秒、15キロ16分20秒。新谷の調子もしっかり見つつ「一番近くでていましたが、呼吸とか走る位置とか、すごい余裕がありそうで状態は良いなと思いました」。新谷は新田コーチが離れた後も粘り強く走り、40キロまでは日本記録に2秒遅れているだけだった。しかし最後にわずか、上がりきらなかった。
新谷は新田コーチにとって、尊敬する選手。だからこそ大役を務めることに、不安もあった。「新谷さんは目標に向けて本当に死ぬ気で準備している。自分のペースメイク次第ではその努力が無になるというか。例えば中間点までしか引っ張れなかったとか、けがしてスタートラインに一緒に立てなかったとかなると、ものすごい迷惑がかかる。そういう所に対するプレッシャーはすごいありましたね」。本番は確実に36キロまでペースメイクしたが「それでももう少し引っ張れていたら、というモヤモヤはある」と拳を握りしめた。
レース終了の約1時間後、新谷と再会した。「その時は既にベルリンマラソンに向けて切り替わっていて、『ベルリンに向けてお願いします』みたいな話しをしました」。新谷は現時点で10月のパリ五輪代表選考会MGCは出走しない予定。とにかく記録を狙っていく。「新谷さんは5000メートルからフルマラソンまで4つの日本記録を作りたいと前々から言っていたので、この判断も新谷さんらしいなというか、考えがぶれないなと思いました。全て更新したら本当にすごい」。
ベルリンマラソンでの日本記録更新へ、決意は固まっている。「新谷さんがもう一度挑戦したいと言ってくれたので僕がやるべきことは、今回36キロまでしか引っ張れなかった距離を1キロでも増やしてサポートすること。まずはしっかり体を作って、1キロでも、1秒でも長く一緒に走る。理想はゴール手前まで一緒に引っ張っていって、新谷さんが日本記録を更新するところをこの目で見届けるというのが一番の目標ですね」。18年間破られていない女子マラソンの日本記録。チームで力を結集し、新たな歴史を刻んでいく。
◆新田 良太郎(にった・りょうたろう)1989年12月14日、宮城生まれ。33歳。玉川中から東北高に進み、コニカミノルタ陸上競技部に所属。13年ニューイヤー駅伝は6区区間賞でチーム優勝に貢献し、16年3月に現役を引退。18年2月からRUNNING・SCIENCE・LABでトレーナーを務め、21年4月から横田真人氏が代表のTwolapsでコーチに就任。マラソンの自己ベストは2時間14分09秒。