プロアマ問わず、監督にとってミーティングとは、勝負の場である。
自らの野球観、あるいは生き方を選手たちに伝え、チームの方向性を決めて行く。この人は、こんな考え方の持ち主なのか。ならば自分はどんな役割で組織に貢献できるのだろうか-。そう思わせるきっかけとなるような、熱さと強さを兼ね備えた内容が求められる。
2023年、最初のミーティング。ENEOS監督として、社会人最高峰・都市対抗の舞台で昨年を含めて4度の優勝に導いた名将・大久保秀昭は、ナインに一枚の写真を見せるところから始まった。
年末、同社のとどろきグラウンドに、1個だけボールが転がっている写真だ。
大久保は言う。
「みんなが会社に行ってからの出来事なんだけど、1年の終わりにグラウンドを回って、『今年もありがとうございました』とお礼をしているときに、ポツンとあるのを見つけたんです。昼間に、1つだけあるのはどういうことかな?って。ボールが外に出ているのを、誰から見つけて投げ入れたのかもしれない。いろんな可能性がある。夜だったら、とも思うんだけど…」
スマホのカメラで撮って、ボールを片付けた。コーチ陣にはすぐに報告した。
「ウチも、まだまだだな」
「気を引き締めて参ります…」
すぐにメンバーに指摘しても良かったかもしれない。だが大久保は、年始の一発目に話した方が効果的とも考えた。正月は誰もが「今年はやるぞ」と目を輝かせ、合宿所に集うからだ。そこで写真を示して、ナインに告げた。
「野球は小さなスキが、大きな綻びにつながる。そういうところからもう一度、しっかりと連覇を意識して、やっていこう」
男たちの表情が引き締まった。
* * *
社会人チームで野球を続ける男たちの動機は千差万別だ。プロ入りを照準に、さらなるステップアップを目指す者。将来的に指導者の道を志し、野球道を極めようとする者。愛社精神をたぎらせ、現役として燃え尽きようとする者-。
そんな多種多様な野球人が、「都市対抗制覇」という目標の下、一致団結して勝負に臨んでいく。だから社会人野球は、面白い。
エネオス野球部はどうあるべきか。大久保は「覇者の品格」という言葉で、あるべき姿を思い描く。
「やはりアマチュアチームの見本たれ、ということ。僕の信念だけど、指導者が代わったとしても持ち続けて欲しいところだよね。それはプレー以外のところも含めて。最終的にはENEOSの試合を見てくれた人たちが『面白いな』『見に行って、良かったな』と思ってくれたらうれしいし。一人でも多くの人を幸せにする。笑顔にする。そこが僕らの使命だと思うんです」
グラウンドに転がる白球から、彼らは何を感じたのか。どう行動していくのか。
2023年。社会人野球を見る楽しみが、また一つ加わった。(編集委員・加藤弘士)=敬称略=