将棋の藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖=に羽生善治九段(52)が挑戦する第72期王将戦七番勝負第1局は8日、静岡県掛川市の「掛川城 二の丸茶室」で前日から指し継がれ、振り駒で先手となった藤井が91手で勝利し、王将初防衛へ好発進した。今年公式戦初対局を白星で飾り、タイトル戦の先手番では23勝3敗と圧倒的な強さを見せた。第2局は21、22日に大阪府高槻市で行われる。
藤井の前で、羽生が「負けました」と頭を下げた。前人未到のタイトル獲得100期を目指すレジェンドとの初の番勝負。歴史的対局はまず、令和の王者に軍配が上がった。藤井は「先勝でスタートを切れてよかったです」とそっと喜びを口にした。
各地が晴れ着姿の新成人でにぎわう中、盤の前でし烈な戦いに臨んだ二十歳の藤井は最善手を指し続けた。後手番の羽生は、あえて自ら角を交換する「一手損角換わり」を採用。藤井が「本局に向けて想定していたわけではなかった」という作戦が功を奏し、初日は互角の形勢で終わった。
迎えた2日目。一晩考えて羽生が託した一手に藤井が攻めの姿勢で応じ、勝負は激しい攻め合いに入った。「(後手から)催促された形だったので、こちらもやっていくような展開になるかなと思いました」(藤井)
午後に入ると、「受けていても難しいのかな」と戦いをさらに激化させる。桂馬を跳ねて、相手玉を狙っていく。「こちらの玉はすぐに寄ってしまう形ではない」と堅い自玉の守りを生かして強気で攻め倒し、白星をもぎ取った。
第1局に振り駒で先後を決め、2局目以降は先後を入れ替えて行われるタイトル戦で、先手番はテニスのサービスゲームに例えられる。有利とされる先手番をキープした上で、後手番でブレイクすれば勝利に近づく。藤井の番勝負48局はこれで40勝8敗。うち先手番では23勝3敗と無類の強さを見せつけている。今年度の通算成績もこの日を含めて先手番21勝1敗(後手番15勝6敗)。先手を取れば無双の藤井は、平成のレジェンドを前にしても揺るがなかった。
羽生と初めてタイトル戦で盤を挟んだ印象を「こちらが予想していない手を指されることも多く、長考することが多かった。自分にはないものを持たれていると改めて感じました」と話す。一方で、「長考した場面であまり考えても見通しが立たないことが多かったので、そのあたりの判断力を上げなくてはいけないと感じた」と自身の反省も口にした。次戦はブレイクを狙う後手番になるが、「より内容を良くしていけるように頑張りたい」と気を引き締めた。(瀬戸 花音)
◆藤井のタイトル戦での先手番負け
▼20年7月棋聖戦第3局 藤井の作戦を「角換わり腰掛け銀」と読んだ渡辺明棋聖(名人)が、90手目の局面まで事前に徹底研究して完勝。
▼21年6月王位戦第1局 藤井が「相掛かり」を選択したが、2日目の封じ手開封直後の攻め合いで後れを取り、豊島将之竜王に完敗。
▼22年6月棋聖戦第1局 振り駒の結果、藤井が先手に。66手で千日手が成立し、永瀬拓矢王座の先手で指し直しとなったが、53手で再び千日手に。再指し直し局は後手の永瀬が経験ある局面になり完勝。