「いい球を打たれたのは何で?」MLBやヤクルトなどで導入「ホークアイ」でわかること…スポーツテック野球編

スポーツ報知
投球のデータ分析イメージ(ソニー提供)

 スポーツにとって、最新テクノロジーは正しい判定や中継で欠くことができない存在だ。最近話題になったサッカーの「半自動オフサイド判定」システムは、ソニーの子会社「ホークアイイノベーションズ」(以下、ホークアイ)も開発し運用している。

 「ホークアイ」の提供する各種サービスは、テニスの「チャレンジ」などでも採用された実績があるほか、MLBでは「StatCast」の名称で開示されている選手のプレーデータの解析の元となるデータの提供をしている。また同社では世界各国のサッカーリーグ向けに「VAR」の運用も行っており、“三笘の1ミリアシスト”などでサッカーファンにはすっかりおなじみになった。

 今回はVARなどのビデオリプレーや、サッカーの「半自動オフサイド」システム、野球のトラッキングに焦点を当て、スポーツを支える最新技術について、システム概要編、サッカー編、野球編の3つをソニー社員で「ホークアイ」アジアパシフィック部門VPの山本太郎氏に話を聞いた。(取材 構成・田中孝憲=@sph_tnk)

 ◆野球編

 野球では、2020年にMLBの全30球場にホークアイのトラッキングシステムが設置され、収集されたデータは中継にも使われているほか、データサイトの「MLB Savant」でファン向けにも一部が公開されている。日本でも同年からヤクルトが試験導入を開始。本格導入した21年、22年とリーグ連覇を達成しているが、最近では、ヤクルト以外でも導入が進んでいる。ボールの回転数や軌道といった数値に加え、投手のフォームや走者、野手の動きもとらえることができる。

 ―野球での導入経緯を教えて下さい

 「2020年シーズンからMLBが全30球場で使用開始したのと同時期に、ほぼ同じシステムをヤクルト球団も実証実験で使い始めて頂きました。今では多くの球団でも我々のシステムを取り入れ始めていただいています」

 ―どんな仕組みなのですか?

 「球場にトラッキング専用のカメラを設置し、ボールや選手を含めた映り込む物体の位置情報をXYZ軸で正確に捉えて数値化しています。選手の動き、選手の骨格情報に関する精密なデータのほか、映像も取っているので、どういう投球をしているか、数値で情報を見ることができるうえ、肘の下がり具合やボールへの指のかかり具合なども確認することができます。球団の分析チームは、選手が試合を終えて上がってきたらそうした細かな情報を伝えてあげたり、『いい球を投げたのに打たれたのは何で?』というのを選手と会話したりしているようです」

 ―カメラはどのように設置していますか?

 「一般的に、8台から12台のカメラを、球場を取り囲むように設置しています。カメラの台数を増やすとデータ量も増え、選手と選手が重なったときでも精密にデータを取ることができます。」

 ―トラックマンのようなレーダー電波を使ったトラッキングサービスとどう違うのですか?

 「我々は実写で映像として撮っているのがアドバンテージと思っています。映像に撮っているので、投球がどっちの方向にどれだけ回転したかなどを細かく見ることができます。縫い目やロゴを追ってデータを取っているので、軸がどこにあるか、というのもわかります」

 ―ほかに特長はありますか?

 「ボールの軌道のデータに関しては、我々のサービスは映像が残っているため、数値がおかしい場合、もう一回見直すことが可能です。たとえば回転数がおかしな数値になっている場合、映像を見直し、西日の影響でエラーが起きていた可能性が分かった事もあります。そうしたエラーに対する対策も出来ます。風が強い球場だとカメラが揺れることもあったのですが、それも手ぶれ補正の技術で改善しています。MLBさんに30球場導入を決めていただいたのは、データの正確性に加えデータロスが少ないという事も評価頂いたと聞いています」

 「我々は全て映像に撮って計算値になっている、というのが大きな違いかなと思います」

 ―でも球場ごとにカメラの位置は変わりますよね

 「取り付けた後のキャリブレーションという作業を経て、映り込んでくる物体の位置が正確になるよう作業しています。システムを設置している球場間の誤差が非常に少ないともご評価頂いています」

 ―どんな活用方法があるのですか?

 「あくまでも一例ですが、『すごくいい球を投げたのにホームランを打たれた、数値的にはいいのに、なんで打たれたんだろう』という時や、『いつもよりカーブがばれるような投げ方だったね、リリースポイントがわかりやすかったんじゃないか』といった時に、コーチと選手が数値と映像を元に確認し、お互いに納得のいくコーチングできるようになったと聞いています」

 「スピンの方向性も出るのでアニメーションでスピンの動きを描写したり、ストライクゾーンにどうボールが飛んできたかという見せ方もできます。選手の骨格情報を取っているので、CGに変換する事もできるため、実写では見られない角度からプレーを確認する事も出来るかと思います」

 ―日米の違いはあるのですか?

 「トラッキングするデータに違いはありません。MLBさんはデータの処理、開示の方法など含め独自(の傘下のMLBAM)で行っています。たとえば、ある選手が27フィート移動して捕球して一塁がアウトになったシーンをデータを付けながら映像化し、2.3秒間で成立したプレーでした、ということを見せるCG映像などを独自で制作されていらっしゃいます」

 ―分析まではしていないのですか?

 「我々はあくまでデータのプロバイダです。ただし、日本の場合は、我々にもお手伝いできる部分があるかもしれないとは考えています」

 ―どんなコミュニケーションを取っているのですか?

 「球団の皆さんとはかなりの頻度でお話しさせていただいていて、データの使い方についての質問をお受けしています。また、他にも『こういった数値が出せれば、おもしろいんだけど』といったリクエストに対応しています。加えて、出てきている数値を球場のファンや中継放送を見ている人にどう伝えるか、といった議論はしています。ただ、数値が好きで映像にもたくさんあったら面白いと思うファンの方もいれば、邪魔なんだけどと思われる方もいる。そのバランスを球団さんと密なコミュニケーションでやっていきたいと思っています」

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