カタールW杯はアルゼンチンが優勝を飾り、約1か月に及ぶ熱戦の幕を閉じた。日本は決勝トーナメント1回戦でクロアチアにPK戦の末に敗退し、初の8強入りは逃したが、1次リーグで優勝経験のあるドイツ、スペインを撃破。大阪本社サッカー担当の金川誉、種村亮の両記者が、注目を集めた関西ゆかりのW杯戦士の秘話を明かした。
■現地では各国記者から絶賛の声「素晴らしいチーム」
―金川記者は現地で取材。日本の快進撃への反応はどうだった?
金川「世界中から注目されたことは実感しました。試合後、他国のファンに次々と声をかけられましたし、各国記者から日本代表について尋ねられ、『素晴らしいチーム』と褒めてもらうこともありました」
―大会で名をとどろかせたのがMF堂安。強気な発言と強豪相手の合計2得点でインパクトを残した。
金川「G大阪時代の16歳から取材しているので感慨深いものがありました。大会直前は『オレが結果を残します!』と発言。言葉通りに結果を残すと、チームが一体感を増す中で、いい意味で『オレが、オレが』みたいな“カド”が取れて、『このチームで勝ちたい。そのために何でもする』との発言が目立つように。24歳で経験した初のW杯で選手としても人間としても成長する様を目の当たりにしました。言葉やプレーに“引力”があるので、将来的にはキャプテンなどを担う存在になるのではと感じました」
―堂安の活躍には地元の尼崎も盛り上がった。兄・憂さんも連日テレビに登場。
金川「地元への貢献を意識して憂さんとサッカースクールを尼崎に開校。W杯から帰国後には、G大阪を訪れて下部組織の選手たちにも声をかけていたそうです。自身を育ててくれた場所や人々への恩返しという意識も強く感じるようになりました」
■天性のストライカー南野拓実「決めたらええんやろ」
―大阪・太子町出身のFW前田は前線での“鬼プレス”に加え、クロアチア戦では得点も。大会前には、種村記者も選手に関わった方々の取材を重ねた。
種村「中学時代に所属した川上FCのコーチングスタッフによると、快足を生かしたプレスは当時から得意としていたそうです。身体能力も抜群。重田兼人コーチは『バネもあって、普通に跳んで頭がゴールバーを越えていました。一度、試合で(ジャンプした)GKの手の上からヘディングした場面は忘れられない』と。W杯でモロッコFWネシリの大ジャンプが世界を驚かせましたが、前田もチャンスがあればもしかしたら…」
―関西にゆかりのある選手は他にもいた。
種村「クロアチアとのPK戦で痛恨の失敗をした南野ですが、重圧がかかる状況で1番手に名乗りを上げた胆力は素直にすごい。ザルツブルク(オーストリア)時代に通訳でサポートした宮沢悠生さんは『日常でサッカーの会話をしても、彼の言葉は“結局、決めたらええんやろ”って語尾につくイメージ。いいサッカーをしても決められなかったら意味がないと、常に考えている。天性のストライカー』と明かしていました。今回の悔しさを糧にゴールという結果で示すはずです」
金川「全4試合に先発して無得点に終わった鎌田は本来の力を発揮できなかったとの見方もありますが、最後までもがいた姿がすごく印象に残りました。『(30歳で迎える)4年後は間違いなく自分にとって最後のW杯。この4年間は次のW杯を意識して、できるだけいいクラブでしっかり力をつけたい』とも話していました。悔しい経験が、さらにステップアップするきっかけになるのではと感じました」
■4年後も関西からの代表選手が大暴れ?
―日本代表26選手のうち19選手が初のW杯。4年後の大会(米国・カナダ・メキシコの共催)で関西から新たに加わりそうな選手は?
種村「担当するC大阪のDF西尾隆矢は24年パリ五輪世代の主力センターバック。1月の日本代表候補合宿に参加するなど、森保監督から対人の強さは評価されています。あと注目は今季、高校生ながらプロ契約を結んだFW北野颯太。五輪からW杯代表に飛び級で選ばれるほどのポテンシャルはあります」
金川「アジア予選などで招集機会もありましたが、本大会はメンバーから漏れたGK谷晃生(今季はG大阪から湘南に期限付き移籍)には正GKとしての活躍を期待。今夏に海外からG大阪に復帰したMF食野亮太郎は、堂安と同期でユース時代から背中を追いかけてきただけに、堂安を刺激にA代表に食い込む選手へ成長してほしい。さらにG大阪から海外移籍し、今季はオーストリア1部のLASKリンツで得点を量産しているFW中村敬斗は、次の代表発足からすぐにでも招集してほしい選手です」
―再び関西勢の活躍で16強のカベを破ってほしい。
金川「次のW杯で日本がベスト8の目標を達成するには、カタールで経験を積んだ選手たちをおびやかす存在が必要不可欠。新戦力の台頭を期待します」
◆過去の主な関西ゆかりのW杯日本代表の活躍
▼02年日韓大会 G大阪からアーセナルに移籍したMF稲本潤一は1次リーグ(L)で2戦連続ゴール。MF森島寛晃は所属するC大阪の本拠地・長居での1次Lで得点。G大阪DF宮本恒靖は大会直前に鼻骨骨折も、フェースガードを付けて守備を統率。
▼10年南アフリカ大会 G大阪下部組織出身のMF本田圭佑(CSKAモスクワ)が1次Lで2得点。G大阪MF遠藤保仁は直接FKを決めた。京都を経てグルノーブル所属のMF松井大輔、神戸MF大久保嘉人は決勝トーナメント(T)まで全4試合先発した。
▼14年ブラジル大会 兵庫・宝塚市出身のFW岡崎慎司(マインツ)が1次Lで2大会連続得点。
▼18年ロシア大会 1次L初戦でC大阪出身のMF香川真司(ドルトムント)がPKで先制点。MF本田圭佑(パチューカ)は3大会連続ゴールを決めた。滋賀・野洲高出身のMF乾貴士(ベティス)は決勝Tのベルギー戦など2試合でゴールを奪った。