1か月に及んだサッカー最大の祭典・カタールW杯が18日、メッシ率いるアルゼンチンの劇的過ぎる優勝で幕を閉じた。
今回、W杯全64試合を無料生中継して一躍、認知度を高めたインターネットテレビ局「ABEMA(アベマ)」も午後10時45分から翌日の午前5時まで生中継。その主役の座を張り続けたのが、今回「報道側のMVP」として、解説者としての評価を高めた元日本代表MF本田圭佑(36)だった。
南アフリカ大会、ブラジル大会、ロシア大会でW杯本大会を経験し、日本人初のW杯3大会連続ゴール、アジア人初のW杯3大会連続アシストを達成。W杯3大会連続で得点とアシストの双方を記録した大会史上6人目の選手としても知られている日本サッカー界の「顔」はカタールの地で初めて解説者席に座った。
今回のW杯のピッチに立っていてもおかしくない現役ならではの戦術眼と大阪弁での歯に衣(きぬ)着せぬワードの数々で、解説者として登板するたびにツイッターの世界トレンドで「本田の解説」が上位に。今月5日の日本代表の決勝トーナメント初戦・クロアチア戦では、ABEMAの入場制限を引き起こすほどの人気者となった。
私自身、先月23日の日本代表の1次リーグ初戦・ドイツ戦から決勝まで、のべ600分以上に渡って「本田節」としか言いようなのない全く新しいサッカー解説をウォッチし、記事化してきた。
とにかく熱くて、臨場感があって、面白い―。そんな言葉の数々は世界中が熱視線を送った決勝でもさく裂した。
試合直前のルサイル競技場の放送席から「フランスはめちゃくちゃ強い。メンバー見たら世界選抜やん。全人種いるやんって」と、いきなり本田節を全開に。一方、同じ左ききのメッシへの思い入れが強いアルゼンチンについては「フランスが強いと思うけど、肩入れしかないんで。今日は素直にアルゼンチンを応援していいんですか? 多分、感情移入しちゃう」と中立が旨の解説者らしからぬ“予告”までした。
その言葉通り、前半、アルゼンチンがメッシ、ディマリアのパス交換からチャンスを作ると、「アルゼンチン、バモス(頑張れ!)」と絶叫。「ごめーん、今日だけは許して。楽しませて、決勝を、素直に」と言い切り、前半23分のPKをメッシが決め、先制すると、「メッシ、来ましたねー!」と再度、絶叫。一方で「まだ喜ぶのは早い。アルゼンチン、喜びすぎるなって! ちゃう、ちゃう。フランスは取り返しに来るから」と冷静に呼びかけもした。
そんな見ているファンの感情にストレートに響く言葉だけでなく、的確な戦況の読みも披露。ディマリアの追加点でアルゼンチンが2点をリード。フランスはシュート0で前半を終えても「全然、2ー2ありますよ、3ー0もあるけど、2ー0のまま終わるとは到底、思えない。アルゼンチンは前半、できすぎですよ」と指摘。その通り、フランスはエムバペのPKと技ありの同点ゴールで追いついた。
さらに「本田劇場」は続く。わずか2分間の同点劇に貴賓席で喜ぶフランス・マクロン大統領が映し出されると、「おまえ、出てくるな! 大統領」と国のトップにまで忖度無し。あくまで「アルゼンチンびいき」公言のもと、「アルゼンチンはもうPK(戦)狙いでいいよ。守るだけでいい。もう、守り抜いてPKで行こう」と、もはや解説者とは思えない“偏向発言”。実況の寺川俊平アナウンサー(34)に「まだ延長戦がありますから」と、たしなめられる場面もあった。
興奮のあまり、「ちょっと変なこと言っていいですか」と明かすと、「体調悪いかも、僕。座っているのに頭に血が上って立ちくらみ」と告白。寺川アナに「もし、本当に体調悪ければ休養を」と言われ、「大丈夫ですよ。でも、立ちくらみ、ヤバいって」とつぶやく場面まであった。
そして、メッシの「神の子」から「神」になったかのような獅子奮迅の活躍でアルゼンチンが36年ぶり3度目の優勝を飾った表彰式で本田は本音中の本音をのぞかせた。
メッシが黄金に輝く優勝トロフィーを天高く掲げた瞬間、「気を抜いちゃうと、嫉妬している自分がいるんです」とポツリ。「ずっと選手としてW杯を目指してきて、今回、初めて外からW杯を見て、主役じゃないことへのイヤな感情があります」と正直に続けた上で「改めて僕は戻ってきますよ、絶対に」と言い切った。
実況終了後、東京のスタジオゲストの「ナインティナイン」矢部浩之(51)に「本田さんの解説は反響大きくて。今回、解説のMVPを差し上げます」と言われると、「喜んでいいんですか?」と苦笑。さらに「今後、機会があったら解説は?」と聞かれると「しないですね」と即答した。
さらに「今日も最後、メッシの喜んでいる姿を見て、僕みたいな記録のレベルのヤツが言うのもあれですけど、主役じゃないのがイヤな自分がいるんです」と改めて現役選手としての意地、トップ選手としてピッチに立ち続けることへの固執をそのまま口にした。
さらに日本サッカーが今後、W杯で主役になるには「選手、監督、スタッフ、協会の人間、Jを運営している人間、ファンの皆さん、個人個人が1人1人のレベルを上げていかないといけない」と提言もした本田。
自身があくまで現役、それもトップの座にこだわり続ける「オレオレ感」、あくの強さを全く隠さないまっすぐな生き方と、そこから紡ぎ出される裏表のないストレートな言葉。それこそが、この男の魅力であり、1か月に渡ってファンを引きつけ続けた魅力であることに、ずっと追いかけ続けてきた私は気づいた。
確かにアルゼンチンびいき過ぎた決勝の解説には賛否両論あるだろうし、興奮のあまり立ちくらみ。実況アナに心配をかける姿は、どうかとも思う。それでも、今回の「本田の解説」が全く新しい臨場感に満ちあふれたものだったことは確か。
そんなカタールの一方の主役は文句なしの大会MVPに輝いたメッシの表彰式を見届けると、スタジアムからと思われるツイートで、こうつぶやいた。
「いつか日本もW杯で優勝しよう! 必ず」―。
その言葉が近未来に実現する瞬間、ピッチの中心には、どこまでもエネルギーにあふれたこの男がいる。そんな予感がするのは、果たして私だけだろうか。(記者コラム・中村 健吾)