◆カタールW杯▽決勝 アルゼンチン3―3(PK4―2)フランス(18日・ルサイル競技場)
元日本代表MFの中村憲剛氏が、アルゼンチンがPK戦の末に勝利したW杯決勝のフランス戦を総括した。アルゼンチンが取ったフランス代表FWエムバペ対策。めまぐるしい両監督の采配を徹底解説した。
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W杯、最高です。一番最後に、一番面白い試合が待っていた。メッシとエムバペ、2人を中心に最高のストーリーが出来上がった。それをつくり上げたのはアルゼンチン・スカロニ監督と、フランス・デシャン監督の采配の応酬だった。
まずスカロニ監督は、準決勝までの4―4―2から布陣を変則的な4―3―3に変更し、左サイドにFWディマリアを配置した。本来なら(左利きで)右サイドが得意な選手を、なぜ左に? これが一つの“エムバペ対策”だったのではないか。技術の高いディマリアを、フランスの左FWエムバペと同じサイドとなる右ではなく、対角に位置する左に置いてボールを集めることで、エムバペからできる限りボールを遠ざけたかったのではないか。
普通なら守備を5バックにするなどがあるが、これは全く違う発想。右FWであろうメッシは、守備面ではあえて中央にポジションを取ることで、フランスの左サイドバック、DFのT・エルナンデスはフリーになる。しかし、そこにはMFデパウルの驚異的な運動量でここのエリアをカバー。攻撃時には、メッシは中央よりにポジションを取るので、T・エルナンデスはマークする選手が誰もいない状況に。最も技術が高いメッシを、中央のプラスワンとして左サイド中心の攻撃をつくったことが、アルゼンチンの2点リードを生んだ。
一方でフランス・デシャン監督も手を打った。左サイドのエムバペにボールが渡らず、前半途中にFWジルーらを代え、エムバペを中央に。さらに、後半26分には中盤のキーマンMFグリーズマンも外し、フォーメーションを4―2―4気味に変更した。グリーズマンを中心にしたロジカルな地上戦が、アルゼンチンの守備に対応されていることでその形を「捨てた」。前線に配置された強い選手へのロングボールを増やし、前向きな守備が機能していたアルゼンチンのDFが嫌がることを徹底。そこから瞬く間に2得点。ロジカルさを放棄し、肉弾戦に持ち込むことで、試合を振り出しに戻した。鮮やかだった。
延長戦でもメッシ、エムバペが1点ずつを奪い合い、PK戦へ。最後はアルゼンチン代表GKのE・マルティネスが、延長後半に見せたビッグセーブの勢いそのままにPK戦でも躍動した。結果論だが、アスリート能力の高いフランスに、球際の強さや個人の判断力の速さなどで対抗したアルゼンチン。そのアドリブ力が、わずかにフランスを上回っていた。
最高の決勝戦。一方で日本のサッカーは現実を突きつけられた。互いに7試合を戦い抜いてきた両チームが見せた個のクオリティーは、今の日本はない。組織も大事だが、1対1で勝つか負けるか、走り切ることができるか。日本は2大会連続でベスト16まで来たからこそ、その先の壁の高さ、厚さを感じることができた。この1か月で感じた刺激すべてを、日本サッカーすべての人たちとともに生かしていきたい。(元日本代表、川崎MF・中村憲剛)