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メッシ伝説V マラドーナ以来 アルゼンチン36年ぶり導いた 史上初2度目MVP…記者が「見た」

スポーツ報知
表彰式でW杯トロフィーにキスをするアルゼンチンのメッシ(カメラ・宮崎 亮太)

◆カタールW杯▽決勝 アルゼンチン3―3(PK4―2)フランス(18日・ルサイル競技場)

 【ルサイル(カタール)18日=岡島智哉】アルゼンチンが、2連覇を狙ったフランスとのW杯史上最大の激戦を制し36年ぶり3度目の優勝を果たした。延長を終えて3―3からのPK戦を4―2で決着。2得点を挙げ、5度目の挑戦で自身初のW杯トロフィーに口づけをしたFWリオネル・メッシ(35)が、史上初めて2度目の大会最優秀選手に選ばれた。最後と公言したW杯で有終の美を飾ったスーパースターが“神になった瞬間”を「見た」。

 * * *

 英雄か、悲劇のヒーローか。メッシが運命を決める分岐点のPK戦に立った。先攻1番手のフランスの“怪物”エムバペはすでに成功。次世代のスターとすれ違い、後攻1番手のメッシがボールに歩み寄る。高まる緊張感。迷わず左足を振った。ボールはGKの逆をつき、ネットを揺らした。両手を広げ会場をあおった。固唾(かたず)をのんでいた大観衆8万8966人の会場が熱狂の渦と化した。

 先制点を挙げても、2―2の延長後半3分に勝ち越し点を奪っても、エムバペが得点し追いついてきた。PK戦では先に決められた。これほどまでに世代交代を印象づけられる場面はない。漫画なら、外す。しかし、決めた。フランスは2人が失敗し、アルゼンチンはメッシに続く3人全員が成功。悲願の世界一に輝いた。次々に抱きつくチームメートに包まれ喜びに浸った。ゴールドのトロフィーを前に顔がほころんだ。「これがほしかった。僕のものだ」。授与の式典を待ちきれず何度もキスをし、いとおしそうになで回し頭上に掲げた。

 35歳。選手としてのピークは過ぎた。それでも今大会は、まぎれもなくメッシの大会だった。1次リーグと決勝トーナメントの各試合で得点した初の選手になった。2度の大会最優秀選手も過去にはいない。

 バロンドール受賞7度は歴代最多。生涯獲得タイトルは40を超える。だが史上最高のサッカー選手と評されるには、足りないものがあった。20年に他界した憧れのマラドーナさん(享年60)のように母国を世界一に導くことだ。少ない運動量は「お散歩」と皮肉られ「バルセロナでしか活躍できない」と嘆かれた。物静かな性格は「無気力」と捉えられ「マラドーナに遠く及ばない」と批判された。意欲を奪われ、16年には代表引退も表明した。

 そこから奮い立ち、自分の背中に憧れた若者たちと、世界一を目指した。最後のW杯は5度目の挑戦。ついに栄誉を手にした。「世界王者としてあと数試合はプレーしたい。これで自分のキャリアを終えたかったし、これ以上、何も望むことはないけど」。有終の美を飾り、代表活動継続にも意欲を示した。

 常にスタジアムの9割以上を埋めてきた熱狂的アルゼンチンサポーターが、今大会から新応援歌として採用し、歌い続けた曲がある。

 「俺たちはディエゴ(マラドーナ)とリオネル(メッシ)の国生まれ。(14年)ブラジルW杯決勝、俺たちは負けた。何年泣いたことか。でもそれもおしまい。俺たちには希望がある。3度目の世界一へ。ディエゴよ、空から見守って。リオネルに力を与えてくれ。俺たちは再び世界一になる」

 18年大会ではメッシのゴールに歓喜し、試合中に貧血で倒れてしまったマラドーナさん。大会期間中の11月25日は命日だった。後継者の躍動に、天国で大熱狂したに違いない。メッシは「最高の気分。みんなに届けたかった勝利だ」と喜びに浸った。アルゼンチン、3度目の世界一。その中心にいたのは、史上最高のサッカー選手だ。(岡島 智哉)

 ▼メッシの記録 準優勝だった14年大会と合わせ2度目の大会最優秀選手は史上初。W杯通算試合出場数を26とし、マテウス(ドイツ)を超えて単独最多に。35歳177日でのゴールはW杯決勝史上2番目の年長得点記録で、最年長は1958年のリードホルム(スウェーデン)の35歳264日。同一大会で1次リーグと、決勝トーナメントの各試合で得点するのは史上初。

 ◆メッシと過去のW杯

 ▽06年(3試合1得点8強)初戦のセルビア・モンテネグロ戦で途中出場し、19歳でW杯デビュー。アルゼンチンでのW杯最年少出場だった。終盤にチーム6点目を決め、同国最年少得点も更新。オランダ、メキシコとの「死の組」突破に貢献した。

 ▽10年(5試合0得点、8強)マラドーナ監督の下、エースと期待された。準々決勝でドイツに0―4。自身も無得点。

 ▽14年(7試合4得点、準優勝)1次リーグ(L)を3戦連発で4ゴール。決勝ではドイツに敗れたが、大会MVPを受賞。

 ▽18年(4試合1得点、16強)1次L3戦目で得点し、1勝1分け1敗で辛くも決勝トーナメントへ。だが、同1回戦で優勝したフランスに3―4で敗れた。

 ◆リオネル・メッシ 1987年6月24日、アルゼンチン・ロサリオ生まれ。35歳。13歳でバルセロナ下部組織に加入し、17歳でトップチームデビュー。リーグ優勝10度、欧州チャンピオンズリーグ4度優勝などタイトル獲得に貢献。バロンドール賞は史上最多の7度受賞。昨季からパリSG。2005年8月に代表初招集され、10年から主将。国際Aマッチ172試合98得点。21年7月に南米選手権優勝。カタールW杯優勝。170センチ、72キロ。左利き。

 ◆夏の来日では…

 今年7月、メッシは所属するパリSGの一員として、川崎などJクラブ3チームと親善試合を行うため来日した。そこで、悲しい現実を見てしまった。

 来日翌日の18日、クラブ主催のサッカー教室が行われた。炎天下、メッシ、エムバペ、ネイマールら5選手がコーチとして参加。日本の小学生43人と触れ合った。

 子どもは正直で、時に残酷だ。人気はエムバペとネイマールに集中した。メッシは圧倒的に不人気。悪気も遠慮もない小学生によって“過去の人”のような扱いを受けてしまっていた。メッシに憧れた世代の私は、もうそういう時代なのか、とショックを受けた。

 それがどうだ。この大活躍である。日本の小学生諸君よ。これがメッシである。(岡)

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