「する人」東大卒ロッテ投手→「支える人」ソフトバンク経営幹部に転身…「野球の経済学」小林至監修

記念ボールや王貞治さんとの写真などが飾られた小林至さんの研究室
記念ボールや王貞治さんとの写真などが飾られた小林至さんの研究室

 プロ野球ロッテの元投手で、引退後は福岡ソフトバンクホークスの経営部門幹部として活躍した小林至さん(54)が監修した「サクッと分かる ビジネス教養 野球の経済学」(新星出版、1430円)が好調な売れ行きを見せている。プロ野球ビジネスの裏側などをQ&A方式で分かりやすく解説。米大リーグ(MLB)と日本野球機構(NPB)の事業規模などの比較や球団経営の実態について、経験者しか知り得なかった様々なエピソードも盛り込んだ。(久保 阿礼)

 「マーケティング」や「経済学」など、難しいテーマを分かりやすくイラストで表現し、専門家が解説する「サクッと分かる」シリーズ。「イメージが湧きやすく、本質に迫るきっかけになる」と好評で、現在までシリーズ全体で50万部を超えるヒットとなっている。

 今回のテーマは「野球の経済学」。小林さんは試合そのものではなく、選手やスタッフの報酬、球場運営、ファンサービス、日米のリーグ比較や組織論に至るまで野球にまつわる様々なビジネスなどに焦点を当てた。

 Q&A方式で好きなテーマから読み進めることができ、ライト層からマニアまで、興味深いテーマが並ぶ。「プロ野球選手になるにはいくらかかるのか」、「球場所有のコストは」、「フロントの役割とは」…。戦後、国民的スポーツとして定着した野球を様々な視点から分析した。

 スポーツの構造を説明する際、一般的に「する人」(選手、監督、コーチ、スタッフ)「見る人」(ファン)、「支える人」(経営陣、スポンサー)に分類される。小林さんは、「する人」から「支える人」へと転身した。東大野球部で投手として活躍し、1991年にドラフト8位でロッテに入団した。史上3人目の東大卒投手として、脚光を浴びた。翌年に自由契約となり退団すると、すぐに米国へ。コロンビア大で経営学修士号(MBA)を取得した。そこで、米4大スポーツ(MLB、NFL、NBA、NHL)の魅力やダイナミズムに触れたという。

 当時、MLBの事業規模は1400億円だったのに対し、NPBは900億円。それほど差はなかったが、小林さんが帰国した2004年頃から「日米格差」は徐々に広がり始める。12球団のNPBに対し、MLBは現在30球団。人口、球団数は日本の約3倍だが、18年の段階で事業規模は5倍以上の差をつけられた。選手やスタッフの年俸も高騰を続けていく。

 「(ヤンキースの)ブライアン・キャッシュマンGMは、年俸300万ドル(約4億700万円)を15年以上もらい続けています。ほかの球団でもGMだと、100万ドル(約1億3500万円)を超えます」。NFLコミッショナーのロージャー・グッデル氏は、19年から5年間の契約金額は5年間で2億ドル。日本円にして約270億円に上る。スポーツビジネスが「ドリーム・ジョブ」と言われるゆえんだ。

「野球の経済学」書影
「野球の経済学」書影

 売り上げだけではなく、報酬面でも大きな差をつけられた。「この差は一体、なぜついたのか。MLBは放映権を一括管理するとか、いろいろな仕組みの違いがありましたが、スポーツビジネスを考えるきっかけの一つになりました」

 小林さんにとって、忘れられない光景がある。ソフトバンクの幹部になる前年の2004年7月。当時のダイエーホークスが来場者へのユニホーム配布を12球団で初めて導入し、球場が満員になった。今でこそユニホーム配布は各球団で定着しているが、当時は異例の試みだった。

 「真っ白いユニホームで、球場が一杯になった。満員の光景ってやっぱりすごかったですね。各球団、フィールド上は競争ですが、ビジネス上はまねるのもOK。良いサービスはどんどん取り入れていけばいい。事業規模はMLBに負けているのですが、日本のグッズは多種多様で、面白い。MLB関係者が日本の球場に視察に来たり、グッズやサービスを見に来ています」

 球界再編問題(04年)以降、各球団は地域密着やデジタル化を進め、球場のサービス改善など様々な改革に着手した。来季は日本ハムの新球場が開場し、ヤクルトを除く11球団が球場の運営管理(指定管理含む)を担う。新型コロナウイルスの流行により、ライブ・エンターテインメント業界は大きな痛手を受けたが、小林さんは再始動できる環境は整いつつあると見ている。

 「私がロッテの練習生だった頃、本拠地だった川崎市民球場の光景を思い出すと、観客は数えるほどでした。それを考えると、今のプロ野球は景色が変わりましたね。日本経済が『失われた30年』と言われる中、コロナ前は各球団の売上、観客動員ともに、ライブエンターテインメントとしてはとても完成度が高かったと思います。コロナが落ち着いてきて、来年はどうなるか注目しています。アマチュア、独立リーグとの関係をどうするのか、野球界が持つ様々な権利関係の整理と収益化など、伸びしろはまだたくさんあると思っています」

 ◆小林 至(こばやし・いたる)1968年1月30日、神奈川県生まれ。54歳。91年、ドラフト8位でロッテに入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年に自由契約となり退団。94年から7年間、米国に在住し、コロンビア大でMBA取得。2005年から14年まで福岡ソフトバンクホークス取締役。孫正義氏、王貞治氏らと常勝ホークスの礎を築く。桜美林学園常務理事。

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