◆カタールW杯 ▽準決勝 フランス2―0モロッコ(14日・アルベイト競技場)
元日本代表の中村憲剛氏が、フランス代表がモロッコ代表に2―0で勝利した一戦を総括。フランスのエースFWエムバペの力を引き出すMFグリーズマンに着目。フランスを「底知れぬ怖さがある」と評した。フランスは主力を負傷などで複数欠く中、“伏兵”が活躍し、選手層の厚さを示す勝ち上がり。アフリカ勢初の準決勝に臨んだモロッコは奮闘及ばず、欧州、南米勢以外で初の決勝進出を逃した。17日(日本時間同日24時)の3位決定戦でクロアチアと顔を合わせる。
* * *
フランスの底知れぬ恐ろしさを感じた試合だった。モロッコは守備のチームと言われてきたが、序盤に失点した後はしっかりと構成された攻撃でチャンスをつくった。それでも、肝心なところは全てフランスがシャットアウトし、攻めるモロッコの隙を突いて追加点を奪う。モロッコの全勢力を引き出した上で、抜け目なく勝ちをもぎ取る姿は強者そのもの。
1点目、フランスはDFバランからMFグリーズマンに縦パスが入り、ボールを奪いに来たモロッコのDFと入れ替わった。そして、ラストパスがエムバペに通ると、モロッコはゴール前で5人もの選手が必死に止めに来た。当然他のマークは空き、外でT・エルナンデスがフリーになった。やはりエムバペが怖いのだ。別の選手なら、あれほどの人数はかけていないかもしれない。ベスト4進出を支えてきたモロッコの守備意識の高さが仇(あだ)になったと同時に、エムバペという選手が積み上げてきた結果が、多くのDFを引きつけたとも言える。
左サイドのFWエムバペは(アルゼンチンの)メッシほどではないが、守備に下がらず前線に残る。モロッコはそのサイドを、DFハキミの攻撃参加を使って突いてきた。そこで大きな役割を果たしていたのが、トップ下のグリーズマンだ。フランスは2ボランチが、左にずれてエムバペのカバーを行う。そこでできる中盤の穴を的確に埋めた。時にはゴール前まで下がり、防波堤となっていた。エムバペが気持ちよくプレーできるのも、グリーズマンが攻守で下支えしているおかげと感じる。フランスは表向きはエムバペのチームだが、その裏でグリーズマンの貢献は見逃せない。
モロッコもMFジエシュらタレントも多く、チームとしてのボールの持ち運びもできていた。しかし、フランスはいい意味での“のらりくらり”感があった。前線からの組織的な守備などは、常に勤勉ではない。それでも、個人の判断と能力で危険な場所を埋め、結果「ゴールラインを越えなければいい」という守り方。前回W杯も、似た戦い方で優勝したという自信もあるだろう。
決勝で当たるアルゼンチンとフランスは、ある意味似たチームだ。形は多少違えど、守備に積極的ではないメッシとエムバペを抱えながら守り、エース2人は攻撃で違いを生み出す。世界一の選手・メッシが唯一獲得していないW杯を取り、自身のストーリーをサッカー選手史上最高のものにするのか。新世代の旗手・エムバペが引導を渡し、連覇を遂げ、真の意味で世界に君臨するのか。勝った方が伝説になる。これほど分かりやすいドラマはない。