国民的映画シリーズ「男はつらいよ」の源公役などで知られる俳優の佐藤蛾次郎(さとう・がじろう、本名・佐藤忠和=ただかず)さんが10日午前10時10分頃、虚血性心不全のため東京都世田谷区の自宅で死去した。78歳だった。近親者のみで11日に通夜、12日に告別式が営まれた。喪主は長男で俳優の佐藤亮太(さとう・りょうた)。
アフロヘアが印象的な個性派の名脇役として愛された蛾次郎さんが天国へと旅立った。
警視庁玉川署によると、10日午前10時過ぎ、亮太が一人暮らしの蛾次郎さんの自宅を訪ねたところ、浴室で風呂につかった状態で動かなくなっているのを発見し、同25分ごろに119番した。直後に現場で死亡が確認された。死因は虚血性心不全だった。関係者によると、持病はなく、健康状態も問題なかったという。新型コロナの状況を考慮し、通夜、葬儀は近親者のみで営まれた。所属事務所によると、お別れの会は未定で、今後検討するという。
大阪の児童劇団を経て映画、ドラマ、舞台で名脇役として活躍。蛾次郎という芸名は61年に出演したドラマ「神州天馬侠」の役名から名付けた。山田洋次監督の映画「男はつらいよ」では題経寺(柴又帝釈天)で働く源公(源吉)役を好演。関西出身で寅次郎(渥美清さん)を兄貴と慕う役どころで、69~2019年のシリーズ全50作中、撮影直前に交通事故で重傷を負った第8作「男はつらいよ 寅次郎恋歌」(71年)以外の49作に出演した。
少ない出番でも強い印象を残した蛾次郎さんはかつてテレビのインタビューで「僕は刺し身で言えば、トロでも何でもない。ピリッとしたわさびになりたい。1シーンでもいいから、良かったと言われたい」と語っていた。別のインタビューでは、兄貴分の寅次郎を演じた渥美さんについて「ちょっとしたしぐさが面白い。渥美さんこそ本物の喜劇俳優」と敬意を表していた。
2016年に妻で女優の和子さんを多発性骨髄腫のため68歳で亡くし、最近は俳優の仕事をセーブしていた。最後に出演した映画は小栗旬(39)主演の「罪の声」(20年)だった。俳優業の傍ら、新橋や銀座で半世紀にわたりスナックを営んできたが、96年に開店した銀座8丁目の「Pabu蛾次ママ」はコロナ禍のため20年末で閉店。当時、スポーツ報知の取材に「ママが亡くなってさみしくて。今回、店もなくなるからね」と話していた。
◆虚血性心不全と入浴中の死亡事故 虚血とは血液の量が不足することで、心不全は心臓の働きが弱って血液が供給できなくなる状態。蛾次郎さんの詳しい死因は不明だが、入浴中の死亡事故は、寒い時期に多く、血圧調節機能が低下した高齢者が大部分を占める。暖かい部屋から寒い脱衣場に移動し、衣服を脱ぐと、寒さに反応して体から熱が奪われないように毛細血管が収縮。その結果、血圧が上昇し、血のめぐりが悪化する。浴槽の熱い湯に入ると血管が拡張し血圧は急激に下降する。急激な血圧変動は「ヒートショック」とも言われ、入浴中の死亡事故につながる。
◆佐藤 蛾次郎(さとう・がじろう)本名・佐藤忠和。1944年8月9日、大阪府高石市生まれ。9歳の時、大阪朝日放送児童劇団に入団。68年、映画「吹けば飛ぶよな男だが」で山田洋次監督と出会い、「男はつらいよ」シリーズ全50作中49作に出演。近年は映画「任侠学園」(19年)、「罪の声」(20年)などに出演した。