だから「城塚翡翠」は面白い…脚本協力の原作者がヒントの「抜け」を謝罪する本格ミステリードラマの魅力

スポーツ報知
ドラマ「invert 城塚翡翠 倒叙集」主演の清原果耶

 日本ドラマ史上初の挑戦を展開中の本格ミステリー作品がどこまで本気で作られ、原作者のベストセラー作家もまた、どこまで真剣に取り組んでいるか―。

 そんなことを実感させられた4日深夜の日本テレビ系連続ドラマ「invert 城塚翡翠 倒叙集」(日曜・午後10時半)放送直後の出来事だった。

 清原果耶(20)が探偵役で主演。助手役の小芝風花(25)、警部補役の及川光博(53)らが脇を固めた話題作の第2話「泡沫の審判」は、こんなストーリーだった。

 小学校教師の末崎絵里(星野真里)が盗撮しては撮影対象への脅迫を繰り返している元校務員・田草を殺害。翌日、遺体発見現場には鐘場警部補(及川)と共に翡翠(清原)と真(小芝)の姿が。警察によると、田草は転落死というが、翡翠は捜査資料から殺人事件と断言。その後、スクールカウンセラーに扮(ふん)して小学校に潜入。絵里に迫るが、絵里には確かなアリバイがあった―。

 「倒叙集」の名の通り、最初に絵里による犯行の一部始終が描かれ、犯人は明示されている。毎回、翡翠が工夫を凝らした探偵活動の末、終盤の謎解きの前に「さてさて、紳士淑女の皆様、お待たせしました。解決編です」とニッコリ。自身の推理のヒントを提示した上で「城塚翡翠でした」と結ぶのが、お約束。90年代に大ヒットした「古畑任三郎」を令和にアップデートしたような作風のもと、今回も翡翠は絵里を理詰めで追い詰めた上で自首を促した。

 前代未聞の出来事が起こったのは、放送終了直後だった。

 原作者の相沢沙呼さん(39)が自身のツイッターを更新。「ちょっと申し訳ないなぁ、と思っている箇所がありまして…。ドラマ版『泡沫の審判』ですが、本格ミステリの観点から、一点だけすごーく些細なことではありますが、原作者、脚本協力として、お詫びしなくてはなりません」と書き出すと、「作中で真ちゃんに提示される『どのように犯人だと推定したのか』という宿題ですが、尺に収めるための編集の都合上、手がかりとなる台詞が一部削除されており、視聴者の方に与えられた情報では導き出すことができません。これはミステリ作品としてはアンフェアとなっており、お詫び申し上げます」と謝罪したのだ。

 さらに「もし自分で解いてみようと思った方がいた場合、出口のない迷路で迷われることのないようにしたく、作品に水を差すようなかたちで大変心苦しいのですが、ここでご報告させていただきました。解こうとしないでね。すまん!!!」と、重ねて視聴者に頭を下げた上で「ミステリとしてフェアであることにこだわる必要はないのかもしれず、そんなものを抜きにして多くの皆さんはこの作品を楽しんで頂けたとは思うのですが、やはりこの作品の原作は本格ミステリとして誕生し、多くの皆さまからご評価を頂いので、本質はあくまでミステリであることにこだわりがあります」と、あくまで真摯(しんし)に記したのだった。

 「ドラマで本格ミステリをやるのは難しいですね…」ともつぶやいた相沢さん。

 どうだろう。脚本協力という形で今回、作品作りに携わっている作家自身がここまで真剣な姿勢で、フェアに視聴者に挑戦しようとしているミステリードラマが過去にあっただろうか。

 そもそも、11月13日放送の第5話までは「霊媒探偵・城塚翡翠」という題名で放送されたこのドラマ。第4話までを、すべて伏線として使用。翡翠の「霊媒探偵」ぶりはすべてフェイクで初回から探偵役を担ってきた推理作家・香月史郎(瀬戸康史)こそが連続女性殺人犯だったという結末に視聴者は驚愕した。

 「最終話」と正面から銘打った5話までで「霊媒探偵・城塚翡翠」は終了させ、11月20日放送回からは「invert 城塚翡翠 倒叙集」として清原主演の“新ドラマ”として続編を放送。1クール中に同一主人公による新ドラマが放送されるのは連ドラ史上初の試みとなった。

 第5話放送前にはプライム帯の連ドラが5話で終了という前代未聞の事態にネット上では「え、もう終わりなの? 打ち切り? 早過ぎないか」との戸惑いの声が殺到。第5話での「透明な悪魔」香月も呆然の翡翠の豹変ぶりにネット上には「最初から全部、だまされていたわ」、「設定自体、否定してきた。これはとんでもないドラマだな」というドラマの設定自体への驚きの声も集中した。

 原作小説を読了の方はご存じの通り、「invert―」は5話までの原作となった19年9月に出版された相沢さんのミステリー「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の続編。今年9月には第3弾「invert 2 覗き窓の死角」(すべて講談社刊)も出版されている。

 放送開始時からファンの間で「原作既読勢」と「原作未読勢」に分かれた今回の作品。ここまでリアルタイム視聴し続けている私も本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい! 2020年版」1位、「2020本格ミステリ・ベスト10」1位、Apple Booksの「2019年ベストブック」ベストミステリー、「2019年SRの会ミステリーベスト10」1位の5冠を獲得した本格ミステリー「medium」を3年前の刊行直後に手に取り、一夜で読み終わっていた。

 第5話までの“前編”でも香月が真犯人であり、最後に翡翠が人格を一変させ、香月を「変態下劣なシスコン野郎」とまでののしり、追い詰めることを知っていたが、1人の人間としてのルールとして、周囲の「原作未読勢」には、じっと黙っていた。辛かった。

 今回の作品についてもネット上で多くの「既読勢」は口をつぐんでいたが、ドラマに考察は付き物。中には「考察した結果、香月が真犯人では?」などの推理を披露するドラマ好きも登場したのを覚えている。

 原作で描かれた物語の全体像を描かず、いわば視聴者も“だましている”状態で放送し続けたためか、1話から5話は視聴率も低迷した。第1話が世帯平均6・4%、個人3・6%、第2話は世帯4・8%、個人2・7%、第3話は世帯5・1%、個人2・7%、第4話は世帯4・9%、個人2・6%、第5話は世帯5・3%、個人2・9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という数字に終わった。

 確かに今回のような本格ミステリーを映像化するのは本当に難しい。同様に最後のドンデン返しやフィニッシングストローク(最後の一撃)で読者を仰天させるミステリー小説に歌野晶午さんの「葉桜の季節に君を想うということ」、我孫子武丸さんの「殺戮にいたる病」などがあるが、これらはいずれも映像化が絶対不可能な作品だろう。大ベストセラーとなった乾くるみさんの「イニシエーション・ラブ」の映画化も決して成功したとは言えない。

 本格ミステリー小説の映像化の難しさを知るからこそ、作り手の挑戦の歴史を見てきたからこそ、私は今回の1クール中の前半すべてを視聴者をいい意味で「だます」ことに費やし、後半を新ドラマとして放送する前代未聞の挑戦を全面的に支持する。

 そして、相沢さんの1人のミステリー作家としての「本格愛」にあふれた視聴者への謝罪にも心を打たれた。

 作り手側がこんなに“マジ”で前のめりで作っているドラマが面白くないわけないじゃないか。リアルタイム視聴率がなんだ。今クールのNO1ドラマは、この作品だと思う。(記者コラム・中村 健吾)

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