「ゲームセンターあらし」で知られる、漫画家・すがやみつるさん(72)の新著「コミカライズ魂 『仮面ライダー』に始まる児童マンガ史」(河出新書、1089円)は、自身の経験をもとに、テレビの特撮番組やアニメなどを雑誌に漫画として描く「コミカライズ」の歴史に迫る一冊だ。オリジナルとは異なる作品を通じて、すがやさんは何を学び、自身の漫画家人生に生かしてきたのだろうか。(高柳 哲人)
インベーダーゲームが大流行した時代、「炎のコマ」や「ムーンサルト」などの必殺技で戦う姿を描いた「―あらし」が代表作のすがやさんは「仮面ライダー」でデビュー。ちょっと漫画に詳しければ「あれ? 『仮面ライダー』って石ノ森章太郎さんじゃなかったっけ?」と思うだろうが、間違いではない。すがやさんが担当したのは、特撮番組やアニメなどを漫画化する「コミカライズ」。その歴史についてまとめたのが本書だ。
「漫画大国」の日本においてコミカライズは一つの文化でもあるが、当時は“二流”の漫画家の仕事とされていた。「オリジナルを描くことができない駆け出しの新人か、仕事がなくなったベテランが技術だけで描くというものと見られていました」。ただ、漫画を生きるすべと考えていたすがやさんは、コミカライズの仕事にも全力で臨んだ。
「私が漫画家を目指したのは、『若くして稼げるようになるかも…』と思ったのがきっかけ。当時、漫画家は30歳を過ぎたら惨めになるだけと言われていた。若いうちに一生暮らせる分を稼がないと、という焦りもあったので、来る仕事は何でも受けていました」
そんな中で、石森プロ(石ノ森さんの漫画制作会社)でコミカライズを手掛けていたことは、後の仕事に大いに役立ったという。「石ノ森先生からは『キャラクターだけしっかりしていれば、シナリオを無視していい』と言われていました。だから、面白がって、いろいろとやれた。ミステリーからサスペンスまで実験をすることができ、コミカライズ作品で漫画を勉強することができたと思います」
すがやさんは、昨年まで京都精華大で教壇に立ち、漫画の講義を行っていた。「最近は、漫画家の志望者は減っている」そうだが、それでも学生たちにはこう教えていたという。「漫画家に必要なものは技術よりも覚悟と決意。『なれたらいいな』ではなく『なるんだ』という思いが大切です」
◆すがや みつる(菅谷充)1950年9月20日、静岡県富士市出身。72歳。県立富士高卒業後に上京し、71年に「仮面ライダー」(原作・石ノ森章太郎)で漫画家デビュー。少年誌、学年誌を中心に活動。78年、「コロコロコミック」で「ゲームセンターあらし」の連載開始。83年、同作と「こんにちはマイコン」で小学館漫画賞受賞。2012年から京都精華大マンガ学部で教鞭(べん)を執り、21年3月に退職。