JR遠野駅から歩くこと3分。柳田國男の「遠野物語」に登場する河童のオブジェを左手に見ながら商店街を歩くと、ひときわ洒落たビアレストラン「遠野醸造TAPROOM」が見えて来た。2018年にオープンした地元ビール文化の発信地だ。
出迎えてくれた代表取締役の袴田大輔さん(34)が「ホップの里からビールの里へ。これがスローガンです」と教えてくれた。遠野は1963年から栽培が始まったホップの日本有数の生産地。キリンビールも参入して80年代には最盛期を迎えたが、外国産の低価格ホップに押されて徐々に生産者は減少した。
地域活性化を目指し、官民一体で「ビールの里構想」がスタートしたのは07年。恒例行事のホップ収穫祭の来場者は年々増え、徐々にビールの里としての認知度は高まった。ブルワリーを併設したこのレストランは、そんな流れの中で誕生した。「街の中心部のブルワリーが、地元の方や観光客の交流の場になっていけば」と袴田さん。話を聞きながら午後6時を過ぎると、店内がにぎわい始めた。
品ぞろえは豊富だが、まずは人気の高いペールエールを頂いてみよう。ジューシーで豊かな香り、そしてドライな後味! コクとキレの共存とは、まさにこの1杯のことだろう。
帰りの釜石線の時間までまだ余裕がある。つまみも頼んでしまおう。遠野産の野菜、パドロンの素揚げ。ピーマンに似ているが、苦みと旨味がビールにピッタリだ。続いてフィッシュ&チップス。宮古産の真鱈を水揚げしたその日に加工したフライは、外はサクッ、内はフワリとした逸品だ。
つまみがさらにビールを誘うという罪な仕掛け。遠野山椒を使った「山椒ベルジャンホワイト」のスパイシーさを味わい、紀州梅とコラボした「完熟梅セゾン」のほんのりした香りに酔ったところで、そろそろ列車が来る時間となった。飲んでしまったけど、これでいいのだ。ビールという文化をたっぷり味わったのだから。
(甲斐 毅彦)
◆遠野醸造 2017年11月に設立され、18年3月から醸造開始。住所は岩手県遠野市中央通り10―15。併設の「遠野醸造TAPROOM」で自家製ビールと地元産の料理を楽しめる。火曜日定休。オンライン販売も行っている。