工学系大初出場を狙う芝浦工大が箱根予選会過去最高20位躍進 前田直樹監督「27年までの初出場は絶対。来年は勝負」

スポーツ報知
箱根駅伝予選会を走る芝浦工大・橋本章央

 10月の第99回箱根駅伝予選会で、2011年に駅伝部を創設した芝浦工大が過去最高の20位に躍進した。「駅伝プロジェクト入学者選抜」試験を導入するなど、大学創立100周年を迎える27年までに工学系私大初の箱根駅伝出場を目指して本格強化に着手。予選通過校との差も過去最少10分32秒まで縮め、24年1月の第100回記念大会での45校目の初出場への期待が膨らむ。橋本章央(3年)が予選会1時間3分37秒で、芝浦工大史上最高36位で関東学生連合チーム入り。5区出走を希望している。

 工業系私大初の夢実現への道が開けてきた。10月の箱根予選会。序盤5キロを芝浦工大が突破圏内5位で通過すると、会場の昭和記念公園にどよめきが起きた。「狙い通りです。『絶対に後ろでレースをしないように。5、10キロでバテたら力がないということ』と選手たちにはレース前に話していましたから。来年、何をしなきゃいけないのかを体で覚えないといけませんので」と日体大OBの前田直樹監督(63)はレース戦略を説明した。

 半数を下級生が占めた芝浦工大は10キロ以降で圏外へ後退した。それでも橋本が36位、1年生の内山壽頼(じゅらい)が52位など10人の合計タイムによるチーム成績は過去最高の20位。通過圏内10位の国士舘大と過去最少10分32秒差に縮めた。

 橋本は言う。「僕の同期は入学当初『無理だろ』と言っていましたが、この2年で5番ずつ予選会の順位が上がって現実味を帯びてきた。(今年の箱根予選会6位通過の)立大は去年、5キロ通過が1番だったので、同じ流れで来年躍進して自分たちも出たい。『来年の第100回記念大会で、もし増枠になったらチャンスだよね』と皆で話しています。気持ち的には皆が(箱根駅伝を)目指していくというのを持ち始めた」

 国内の工学系私大ではトップ級の偏差値を誇る。11年の創部当初半数は大学から陸上を始めた選手だった。17年の箱根予選会で大学から陸上を始めた矢沢健太(当時4年)が個人88位となって関東学生連合に初選出。18年1月の箱根1区で芝浦工大のランナーとして初出場した。それを契機に、大学創立100周年となる27年までの箱根駅伝初出場を目標に「駅伝プロジェクト」が大学内で発足した。

 19年から異例の「駅伝プロジェクト入学者選抜」という入試制度も設け、学力も備えた有望選手を募集。毎年、勧誘した8人前後が同制度で加わり選手層は厚くなった。また、駅伝監督として東農大を8度箱根駅伝出場へ導いた前田氏が同年から監督に招へいされた。「『一級建築士の資格を取りたい』という子もいますし、本当に皆よく勉強します。5000メートルの記録だけじゃなく、偏差値もうかがいながら勧誘しています。東農大の時にこれだけの練習をしていたら、箱根駅伝に出られていたという感覚がありますので。何としても初出場をかなえてあげたい。将来的に、箱根駅伝を走った一級建築士とかが出てくると面白いですよね」。

 今年3月、さいたま市内に駅伝部専用「白亜寮」も完成した。3年前に整備された練習グラウンドまで徒歩数分で、朝練習での集団走も定着。平日午後は授業の合間を縫って個別に練習に励む。監督と柏木朋也コーチ(40)は寮に住み込み、各選手の練習時には熱視線を送る。「合同練習ができるのは朝だけ。それ以外は曜日も授業もバラバラ。寮で同じ時間に朝、晩食事ができるのはコミュニケーションが取れるのでいいことですし、大きいです。駅伝もチームワークなのでものすごくありがたい」と大学側の支援による和気あいあいとした雰囲気に指揮官は感謝する。近年、箱根予選会突破へ向けてアフリカ人留学生を招く大学も増えているが「うちは勉強が優先です」と否定した。

 21年大会。関東学生連合チームの10区で、芝浦工大2人目の箱根ランナーとなった松川雅虎(当時2年)が区間6位相当の好走を見せた。当時1年生だった橋本は、10区の走路員として松川の走りを間近で見守った。「悔しい、という気持ちが強かった。一緒に練習してきて自分も練習を積めていたので。すごいな、と感じたのと同時に自分も、と思いました」と今回の予選会での走りにその時の思いがつながった。

 その橋本は、芝浦工大勢初となる箱根の山区間5区出走を希望している。指揮官は「上りは強いですよ。東農大で見てきた選手の中でも1、2番目くらい。故障なくレースに臨めればかなり面白いと思いますね。橋本が良い走りを見せて柱になってくれると、他の選手達にも本気で強くなりたいという気持ちが出てくる。自主性を持って、空き時間に自分から走るようになってくれると、強いチームになっていくと思います」と来年以降の起爆剤となるような力走を期待している。

 24年の箱根駅伝は第100回大会だ。出場枠数は未定だが同じ記念大会だった第90回、第95回は23チームに増枠された実績がある。「27年までの初出場は絶対。増枠の可能性もありますし、来年は勝負をかけます。個々に1万メートルの記録を上げて上位8人平均が29分40秒を切らないと。そこに到達すればチャンスはある」と前田監督。文武両道を貫き、箱根路に新たな歴史を刻む。(榎本 友一)

 ◇芝浦工大 1927年に有元史郎が東京・大森に創立。「Shibaura Institute of Technology」で「SIT」が略称。実学重視の技術者育成教育を継承して49年に大学が設置され東京・江東区の「豊洲キャンパス」、さいたま市の「大宮キャンパス」に工学部、システム理工学部、デザイン工学部、建築学部など4学部16学科1課程がある。山田純学長で学生数は7962(男子6445)人。主なOBはプロ野球・西武元監督の伊原春樹氏、中村和雄氏(元バスケ日本女子代表監督)。

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 箱根駅伝予選会初出場だった橋本は、芝浦工大3人目となる関東学生連合チーム入りを果たした。初のハーフマラソンも序盤から突っ込んで入り、15キロ以降は持ち前の粘り強い走り。チーム歴代最高の36位に「レース前は結構、練習が積めていて自信もあった。100%自分の力を出し切れば結果は出るなと思っていた。ラスト5キロは何とか粘れた。50番以内を目指していたので、そこが達成できたので100点満点に近い走り」と笑顔で振り返った。

 どうしても果たしたい約束があった。国学院久我山高2年の合宿で約9キロの山上りのタイムトライアルで、36分台と歴代1位の記録をマーク。全国高校駅伝を走ったチームメイトの伊東大翔(ひろと、現中大3年)らにも競り勝ち「箱根駅伝の5区を走りたいと思った」と目標が定まった。「数学が好きで理系を専攻」しており、前田監督の勧誘を受けて「駅伝プロジェクト入学者選抜」で小論文と面接を通って芝浦工大へと進んだ。

 国学院久我山高監督の有坂好司氏(享年58)が21年1月、死去した。20年12月に「都大路(全国高校駅伝)頑張って下さい」と恩師にメールすると「箱根駅伝の5区を走れよ」などと返信があった。そのメールは、橋本のスマホに今も大切に保存され時々、読み返している。「僕は都大路は補欠で走れなかった。有坂先生との約束のためにも今年こそは、という思いがあって箱根予選会も走れました」と亡き恩師にささげる快走を見せた。「伊東大翔からも箱根予選会後に『関東学生連合チーム入り、おめでとう』と連絡がありました」と感謝した。

 環境システム学科で勉強との両立は簡単ではない。実験や実習もありパソコンとにらめっこの日々だ。「課題が出たらかなりの時間をかけてやらないと。1、2年時は徹夜とか睡眠不足になっていましたね」と苦笑いで明かす。「都市計画や建築、環境問題を総合的に考えて、どういった都市作りにつなげていくかを研究しています。卒業後は陸上を続けないとしたら、学んで興味を持ったエネルギー関連の職種につけたら」としっかりと将来のビジョンも見据えている。

 入学3年目で年々、陸上と勉強のバランスがうまく取れるようになってきた。平日は毎朝、チームで集団走をしている。「芝生で12キロを4分から3分半くらいのペースまで上げる。午後は週2、3回のポイント練習で距離走を個別にやります。1万6000メートルのペースランニング、500メートルのインターバル走などを主にやりますね」と橋本。故障や勉強などでレースに出る機会は少なかったが「力はついている」と実感している。

 今年8月から9月は自己最多月間計1000キロの距離を走り込み。箱根予選会を故障欠場した過去2年を反省。勉強は徹夜を禁じて卒なくこなし、体のケアや睡眠時間を優先してきた。「寮が今年から2人部屋になったおかげで、互いに監視の目ではないですが、きちんとした生活をしようと思って。寝る時間を早めるとか、勉強を早めにやるとかを心がけるようになりました」と新しい寮の完成もプラスに働いた。

 今回の関東学生連合のメンバー選考は、予選会順位が優先される方針だという。関東学生連合3番手だった橋本は、希望する5区出走の可能性が高い。芝浦工大勢としては初の箱根の山上りに挑むが「記録には残らないので幻の区間賞というか、1時間10分台で上りたい。自分が走って勢いづけて来年につなげられたら」。亡き恩師、チームメイトたちへの思いを胸に“天下の険”を駆け抜ける。

 ◇橋本 章央(はしもと・あきお)2001年8月18日、東京・杉並区生まれ。21歳。国学院久我山中で陸上を始め、3年時に3000メートルで東京都大会決勝進出。国学院久我山高3年時に全国高校駅伝メンバー入り。5000メートル14分25秒05、1万メートル29分56秒00。システム理工学部環境システム学科3年。169センチ、49キロ。家族は両親と兄、妹。

 ◇関東学生連合チーム 2003~13年に編成された「関東学連選抜」(04年は「日本学連選抜」)を改め15年から「関東学生連合」として再結成。予選会で敗退した大学の中から個人成績を参考に編成。各校1人で外国人留学生を除く。過去の本戦出場がない選手に限られるため全員が初出場となる。チーム、個人とも順位がつかないオープン参加。07~13年はチーム、個人の成績が認められており、最高成績は08年の4位。前回大会は出場21チーム中、往路15位相当、復路10位相当、総合14位相当。タスキの色は白。

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