氷川きよし、「白組・紅組の枠を超えて」紅白出場…休養前最後の舞台で見せる「本当に美しいもの」への期待

スポーツ報知
2019年12月の紅白歌合戦のリハーサル後に「ありのままの姿で輝きたい」と堂々、宣言した際の氷川きよし

 今年大みそかの「第73回NHK紅白歌合戦」出場歌手発表会見が16日、東京・渋谷の同局で行われた。

 テーマは「LOVE&PEACE―みんなでシェア!―」。昨年はNHKホールの耐震工事を理由に東京国際フォーラムで行われた歌の祭典が今年は同ホールにカムバック。有観客で開催される中、最も心躍る企画の発表があった。

 それは今年の紅白をもって休養に入る氷川きよし(45)が「氷川きよし~新たなるステージへ~」と題した特別企画に出場するというアナウンス。デビューの2000年に「箱根八里の半次郎」で初出場して以来、23年連続23回目の出場の演歌界のプリンスはこれまで白組で出場してきたが、今回の特別企画は白組、紅組の枠を超えたものになるという。

 コメントで「今回は白組・紅組の枠を超え、特別企画としての出場ということで、デビューから23年の想いを込めて、自分という一人の人間として、そしてアーティストとして、みなさまに最高のパフォーマンスをお見せしたいと思います!」と意気込んだ氷川。

 その「白組・紅組の枠を超え―」という言葉を目にした瞬間、私の記憶は3年前の2019年12月28日のNHKホールのロビーへと舞い戻っていた。

 その時、私は斜め後ろ50センチほどの距離から氷川の背中を見つめていた。紅白リハの音合わせを終えた午後5時、演歌の枠を超えたトップスターは、とてもいい匂いがする香水の香りとともに待ち構えた約70人の記者の前に現れた。思えば、コロナ禍前のリハ取材では、出場歌手に多数の記者がぎりぎりまで近づくことが許されていた。

 ばっちりメイクとおしゃれなブラックで彩られたネイルで笑顔を振りまく人気者は、その年、様々な意味で「限界突破」していた。YouTubeで公開したアニメ映画「ドラゴンボール超」の主題歌「限界突破×サバイバー」の歌唱では、細い眉にメイクの妖艶な外見が大きな話題を呼び、再生回数400万回突破。

 同年8月のヤクルト戦の始球式に登場した際にはムダ毛が全くないショートパンツ姿で「美脚」を披露。同月に日本テレビ系「スッキリ」に生出演した際には、自らを「あたし」と呼称。耳目を集めた。大型アニソンフェス「アニサマ2019」には足、胸、腕がシースルー素材の全身真っ黒なビジュアル系衣装で登場。「kii(きー)」名義でインスタグラムも開設。純白のウエディングドレス姿などを披露していた。

 178センチの長身を黒のロングジャケットで包んだ氷川は、その時、私の目の前で約10分間に渡って熱弁をふるった。

 「本当に今年は最高の1年でした。ずっと、イメージ付けされてきた部分があったから、今までイメージされていた氷川きよしというイメージをぶち壊したいという気持ちがあった。今までの氷川きよしは氷川きよしでバックボーンとして毎日、一生懸命やってきたんですけど、20周年を迎えて、時代も変わって、自分らしく、ありのままの姿で音楽を、自分を表現したいって」―。

 一気に話すと、「どうしても人間って、カテゴライズしたり、当てはめよう、当てはめようって、人と比べたりする傾向があると思うんですけど、そこの中でやっているのはすごく苦しいです」と続け、「そのために今年初めから自分の中で決意していて。本当の自分を表現しよう。ありのままの自分を表現しようって。もっと、自分の中に持っているもの、自分の才能、持っているものを、もっと生かせたらいいなって。全部、表現しようと決めたんです。限界突破で、このドアを開こう。誰も切り開いていない道を1人で切り開くのは大変だけど、摩擦とか怖がっていたら、次のドアは開けない。自分の個性、命を大事にして、人を励ましていけるアーティストでいたいんです」と話し続けた。

 「これからはきーちゃんらしく、きよし君にはちょっと、さよならして。きーちゃんとして、私らしく。より自分らしく、ありのままの姿で紅白で輝きますから、それを見て皆さんも輝いて生きて下さい」と話すと、最後の最後に「私は自分に負けません」―。本当にきっぱりと言った。

 ふと気がつくと、氷川の真後ろに位置する形になった私は一言、一言を自分の言葉ではっきりと話し続ける、そのきゃしゃな背中を見つめ続けていた。

 翌年からはコロナ禍に翻弄される日々が続き、気がつくと、あっという間に3年が経っていた。男女の性差、性的指向の違い、身体的・精神的な障害の有無、貧富の差―。世の中に厳然として存在するそうした差別的なものの見方にアイドル並のルックスで演歌を歌う「貴公子」として振る舞うことを常に要求されてきた歌手が内面で、どれほど苦しんできたのか。

 私は今年1月21日、事務所の公式サイトで発表された氷川の今年いっぱいでの歌手活動休止の一報を聞いた際も、じっと、そのことを考えていた。

 決して引退などではなく、デビュー以来22年間突っ走り続けてきた「歌手・氷川きよし」を一旦お休み。自分を見つめ直し、リフレッシュする時間をつくりたいという本人の意向と知り、ほっとしたことを昨日のことのように覚えている。

 なぜなら、3年前の約10分間の会見で氷川が口にした「カテゴライズ」「すごく苦しい」「命を大事に」「自分に負けません」などの晴れの紅白会見には似つかわしくない言葉の数々が鈍感な私にすら、その22年分の苦悩の深さを教えてくれていたから―。

 20、21年の紅白でも、氷川は白組の一員として、熱唱。両年とも会場での取材がかなわなかった私はテレビ画面越しに、日本で一番歌がうまいと再認識させられたパフォーマンスに心を打たれ、性差に始まるあらゆるカテゴリー分けを、はるかに超越した潔くて、美しくて、かっこいいものを見せつけられた。

 そして、今年の大みそか、氷川はかねてから「現代の日本に紅組、白組なんて組み分けが必要なのか?」という議論が渦巻く大舞台で、そして、休養前最後となる大舞台で望み通り「白組・紅組の枠を超え―」ステージに上がる。

 そのパフォーマンスは、どんなに魅力的なものになるのだろう―。氷川が声を発した瞬間、「本当に美しいものとは何か?」という問いかけへのはっきりとした答えが出るのだけは確かなこと。今から、その瞬間が楽しみで仕方がない。(記者コラム・中村 健吾)

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