【高校野球】元巨人の東北高・佐藤洋監督、悪しき習慣と戦い来春のセンバツ当確「子どもたちに野球を返す」

スポーツ報知
10月の東北大会でノックする東北・佐藤監督

 今秋の東北大会で準優勝し、来春のセンバツ高校野球(来年3月18日開幕、甲子園)の出場を“当確”とした東北(宮城)。8月からチームを率いるのは、同校OBで元巨人の佐藤洋監督(60)だ。自立を掲げ、これまでと違うアプローチで選手たちと接する指揮官の思い、そしてこれまで何度も口にしてきた「子どもたちに野球を返す」という言葉の真意とは。

(取材・構成=有吉広紀)

 就任から間もないなか、今秋は県大会優勝、東北大会準優勝。来春のセンバツ出場をグッと引き寄せた。

 佐藤(以下佐)「学校関係者やOBなど、喜んでいただける方がこんなにいるんだな、と思いました。(試合後に)ベンチの前で校歌を聞いていたら、客席のほうで大声で歌っている方々がいて。東北高校って伝統あるんだなと感じました」

 前監督の富沢清徳副部長の後を受け、8月に監督就任。自身のことを「洋さん」と呼ばせ、選手たちの意見を尊重しながら髪を伸ばしたり、ウォーミングアップ時に音楽を流したり、練習でユニホームを着ないときもある。これまでと異なるアプローチにはさまざまな“意見”があった。

 佐「自由にやっていいよ、任せたよってことは、君たちに責任があるということ。それが一番重い。選手たちはそれを分かっている。最初は、髪伸ばすの? これじゃドライヤーが必要だな、とか嫌みも言われました。でも、俺は学校ともOBとも戦うと選手たちに宣言しましたから」

 変化や敵を恐れない。そこにあるのは野球への強い思いだ。引退後、運営してきた野球塾などを通してアマ野球を長年見てきて感じたことが根底にある。

 佐「就任してすぐに、何歳で野球を始めた?という話をして、みんな『最初は楽しかった』と言う。いつからだんだん嫌になったの?と聞くと『お父さんに怒られたから』『監督に怒られたから』とか、『中学校くらいには苦しくなった』と。誰がお前らから野球の楽しさを奪ったかというと、大人なんだ。俺は大人を代表して謝る。だからみんなにしてもらいたいのは、野球を君たちに返すから、最初の楽しかったというところにもう一回戻ってやってくれ、と話しました」

 選手たちに自立をうながす佐藤監督。就任後、声を荒らげるようなことは一度もないという。そこにも信念がある。

 佐「みんな失敗して経験していくじゃないですか。今の流れって、失敗しないように先に答えを言ってしまうし、これが正解だと押しつけてしまう。それができないとどなったりとか。試合上でやってはいけないミス、例えば凡プレーや人を傷つけたとかは怒ってもいいですけど、三振やエラーは怒る必要性がない。選手たちに失敗って何?と聞くと、三振やエラーや暴投だと。全部オッケーだから、失敗は若者の特権なんだよ、どんどん失敗しろって言いました」

 自由のなかにある責任。それから反すれば、怒ることはなくても厳しさは当然必要だ。

 佐「いつの間にか野球の神様に変換されているけど、最初『勝利の女神はきれい好きだぞ』と言って寮や部室の整理整頓をした。実際、レギュラーだった選手も(乱雑だから)スタメンから外したりしました。門限から遅れてきた選手を外出禁止1か月にしたこともあって、でも子供だけに罰を与えるのは嫌だから、俺も1か月晩飯抜きだと。その積み重ねで、みんなが『今まで出会ってきた大人とちょっと違うぞ』と思ってくれたのかな」

 選手たちもそんな指揮官の思いを理解しつつある。先日、練習前にある選手からこんな話があったそうだ。

 佐「授業中に何か言われてカチンときて、ふてぶてしい態度を取ったら先生に怒られた、と。せっかく洋さんが学校と戦っているのにすいませんでした、と言ってきました。自分たちのことも分かって、そういうことを理解したらそれでオッケーじゃないですか」

 来春のセンバツに向けて、再び横一線での競争はすでに始まっている。

 佐「目標があるのでいつもより頑張れると思う。今ここにいる全員にチャンスがあるんだから見逃す手はないだろう、もしかしたら人生のなかで最大のチャンスかもしれないぞ、と言いました。簡単なことです、頑張ったやつを使うって言っているので」

 自らが考えて努力しながら、野球を楽しむ。そんな選手が1人でも増えるよう、佐藤監督はきょうも彼らに寄り添っている。

 ◆佐藤洋(さとう・ひろし)1962年6月9日、宮城・石巻市生まれ。60歳。東北では2年春夏、3年春夏の4度甲子園出場。最高成績は3年春の8強。電電東北(現NTT東北)に進み、84年ドラフト4位で巨人に入団。87年に一軍初出場。94年に現役引退。その後アマ野球の指導に携わり、今年8月に東北高監督に就任した。

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