「新たな羽生結弦というステージ」へ 物語の始まりに見た「幸せ」の連鎖 連載「序章」最終回

羽生結弦さん(写真は2022年09月29日)
羽生結弦さん(写真は2022年09月29日)

 フィギュアスケート男子で2014年ソチ、18年平昌五輪を連覇し、7月にプロ転向した羽生結弦さん(27)が、プロスケーターとしての一歩を踏み出した。4日に横浜市のぴあアリーナMMで開幕したアイスショー「プロローグ」で自ら総合演出し単独公演を行った。羽生さんの新たな船出となった4日のアイスショーを、スポーツ報知では「序章」と題し、特別連載を4回にわたり掲載する。

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 「僕は、幸せです」と羽生結弦は言った。今も耳に残っている。

 アイスショー「プロローグ」のクライマックスで流れた映像の、最後を締めたナレーションでの言葉だった。18年平昌五輪のNHKのテーマソング「サザンカ」(SEKAI NO OWARI)の曲をなぞるように、これまでのスケート人生を振り返った内容は心を打った。

 続いて会場に響いたのは「春よ、来い」のピアノの音色。この流れこそ、リアルタイムで見る羽生結弦のドキュメントそのものだったように思う。

 今年2月の北京五輪のエキシビションでも滑った、羽生が大切にしてきた演目だ。北京のリンクで演じたときよりも、柔らかなオーラがあった。幸せそうに氷上を舞う羽生に、暖かな「春」の訪れを感じた。

 アンコールの「パリの散歩道」が終わったと同時に、取材エリアへ急いだ。

 「これから始まる物語は、どんな物語になっていくと思うか?」と尋ねた。

 「えっとー、まあ正直多分…プロ転向の記者会見でも言ったかもしれないんですけど…なんか……うーん…」

 羽生は珍しく考え込んだ。

 「プロだからこその目標みたいなものって、具体的に見えてないんですよね。なんか、こういうことってある意味、僕の人生史上初めてのことなんです。今までは、僕4歳の頃から常にオリンピックで金メダルを取るっていう目標があった上で生活してきてたので。ちょっとだから今、中ぶらりんな感じではあります」

 羽生史上初めて、具体的な目標を掲げることなく毎日を過ごしているという。羽生結弦のスケートを極めること。それに尽きるのだろう。日々の練習に全力を投じる。これぞ羽生のすごさなのだと、続く答えに思った。

 「ただ、こうやって、まずはこの『プロローグ』を毎日、毎日、成功させるために努力していったこととか、今日は今日で、一つ一つのジャンプだったり、演技だったり、そういったものに集中していったこととか、そういったことが多分、積み重なっていって、また新たな羽生結弦っていうステージに、つながっていったり。またそれが積み重なっていくことで、新たな自分の基盤ができていったりとかもすると思うので。今できることをめいっぱいやって、また、フィギュアスケートっていうものの限界を超えていけるようにしたいなっていう気持ちでいます。それがなんか、これからの僕の、物語としてあったらいいなって思います」

 取材を終えて会場を出ると、帰路に就く観客の姿があった。皆笑顔だった。「私たちも、幸せです」。そんな思いを大切に大切に抱えながら、今夜眠りに就くのだろう。そんなことを考えながら、多幸感に包まれた横浜の夜だった。(高木 恵)=おわり、敬称略=

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