スポーツ報知評論家の高橋由伸氏(47)=前巨人監督=が8日、今年で51回目を迎える「三井ゴールデン・グラブ賞」(三井広報委員会提供)への思いを語った。入団当初から「打撃より守備の方に自信があった」という由伸氏は1998年から6年連続を含む計7度も受賞。飛び抜けたスピードはなくても、的確なポジショニングや視野の広さなどでファンを魅了した右翼手だった。当時のライバルや現代のスペシャリストまで、由伸氏独自の目線で選手名も披露。同賞における今後の期待にも言及した。(取材・構成=水井 基博)
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―今年で三井ゴールデン・グラブ賞は51回目を迎えます。由伸氏にとっての同賞とは。
「プロの世界に入って、巨人のキャンプからスタートしましたが、正直、打撃よりも守る方に自信がありました。でも、このゴールデン・グラブは狙って取るものではなくて、結果として守備で貢献できたかどうか。7回も受賞できたことは誇りですね」
―実際、プロの守備レベルはどう映ったのか。
「巨人に入ってキャンプに入り『これは自分が一番うまいかもしれない』と思いましたね(笑い)。当時の外野手は松井秀喜さん、清水隆行さん、広沢克実さんら打撃部門の方ばかりだったので。『今すぐ勝負になるな』と思いましたね」
―由伸氏がお手本とした外野手は?
「桐蔭学園、慶大の頃から外野手のスターはヤクルトの飯田哲也さんでした。守備範囲は広いし、速いし、ポジショニングとかすべてにおいてすごいと思いましたね。あと、新庄剛志さんのやっぱり、身体能力はマネできるものではない。広島の前田智徳さんもポテンシャル、身体能力が高いと思って見てました。でも、その中でも何とか戦えるかな、という感じもありましたね」
―外野手として意識していたことは?
「状況判断ですね。アウトカウントやボールカウント、バッターの打つ傾向もそうですが、とにかく先の塁に行かせないこと。例えば当時ヤクルトの宮本慎也さんは、打球を追いかけながら周りの風景も視界に入ってくるらしいんです。『このへんにランナーがいるな』とかが何となく分かると言ってました」
―それが見えるとプレーも変わってくる。
「実は自分も見えていました。例えばランナー一、二塁でライナーを捕球した際、事前にどっちが大きく飛び出しているのかを見ることもできます。捕りに行きながら走者の位置を確認できたので、何でもかんでも強引に捕りに行くことはせず、引くことも覚えました。リスクの高いことは避けないといけないケースもありますからね」
―印象的なプレーは覚えている?
「さっきも言いましたが、1年目のキャンプで『守備は何とかなるかな』という思いでスタートして、あれは最初のオープン戦でしたね。ファーストタッチで三塁走者のタッチアップを刺したんです。その時の周りの反応を見て、『いける』って確信に変わりましたね」
―でも、大学とプロでは打球の速さ、伸びが違うはず。
「全然違います。打球の速さ、高さ、強さとか」
―慣れはいつ頃?
「徐々にですね。ノックを受けるより打撃練習の生きた打球を追って、実戦に近いものを捕ることを若い頃から大事にしてやっていました。打ったボールはいろんな変化がありますし、逆にノックは飛んでくる前に準備ができる。そういった部分で全然違うので」
―当時、外野手としての目標は?
「やっぱり、エラーしないことですね。外野手は守備機会も少ないですし、エラーする確率は低いはず。そんな当たり前のことをきっちりやることです」
―目の前のアウトを確実に取っていくことが三井ゴールデン・グラブ賞につながる。
「もちろん、消極的になることとは違いますから。いろんな駆け引き、勝負をした中で、できる限り、ミスをしないことが大事かなと。その点をきっちり評価してもらって、同賞につながればいいと思います」
◆高橋 由伸(たかはし・よしのぶ)1975年4月3日、千葉市生まれ。47歳。桐蔭学園高では1年夏、2年夏に甲子園出場。慶大では東京六大学リーグ新記録の通算23本塁打を放ち、97年ドラフト1位で巨人入団。99、2007年ベストナイン。98年からの6年連続を含む三井ゴールデン・グラブ賞7度。04年アテネ五輪日本代表。15年限りで現役を引退し、16~18年は巨人第18代監督。19年から巨人の球団特別顧問、スポーツ報知評論家を務める。通算1819試合で1753安打、321本塁打、986打点。打率2割9分1厘。右投左打。
◆「三井ゴールデン・グラブ賞」とは
守備面で特に卓越した優秀プレーヤーをセントラル、パシフィックの両リーグそれぞれのポジションから9人ずつ選出し、「守備のベストナイン」として表彰。
1972年に「ダイヤモンドグラブ賞」として制定後、86年から三井広報委員会の提供となり、現在の表彰名称「三井ゴールデン・グラブ賞」となる。
選考委員は全国の新聞社・通信社・テレビ局・ラジオ局に所属する5年以上の現場取材経験をもつ記者、約400人が務める。
昨年度で第50回を迎え、これまでに延べ905人の守備の名手たちをたたえている。本年度「第51回三井ゴールデン・グラブ賞」の受賞者は11月14日に発表される。