フィギュアスケート男子で2014年ソチ、18年平昌五輪を連覇し、7月にプロ転向した羽生結弦さん(27)が、プロスケーターとしての一歩を踏み出した。4日に横浜市のぴあアリーナMMで開幕したアイスショー「プロローグ」で自ら総合演出し単独公演を行った。羽生さんの新たな船出となった4日のアイスショーを、スポーツ報知では「序章」と題し、特別連載を4回にわたり掲載する。
* * * * *
優雅で自由で、細部にまで神経が宿った流れるような動き。一言で言うなら「氷上の舞」。どこかで見たことがある気が―。思い出せないまま、壮大な世界観に見とれた。
ショーの終盤に披露されたのは、羽生結弦が初めて自ら振り付けた新プログラム「いつか終わる夢」。「僕めちゃくちゃ好きで。世代なんで」と明かした「ファイナルファンタジー10」のテーマソングの一つだった。
囲み取材で冒頭の答えに行き着いた。羽生が競技会の公式練習の終わりに時折見せた、クールダウンの動きだった。
「自分が滑りながらこの曲を流していたときに、クールダウンの動きをやったら、ピタッて、はまったんですね。そのときに『あ、みなさん、そういえばクールダウン、すごい見たいなって言ってくださっていたな』って。あれだけで十分満たされるっていう声をいただいていたなということがあったので、『じゃあプログラムにしよう』って」
世界的演出家のMIKIKOさんによるプロジェクションマッピングと融合した、幻想的な演目だった。羽生の滑りが氷上を染めていくように見えた。何度滑ってもミリ単位で同じ軌道を行く精密なスケーティング技術があるからこそ、成立する見せ方なのだろう。
「僕自身、元々は五輪2連覇が夢でした。そしてその後に4回転半という夢を、また改めて設定して追い求めてきました。競技というレベルでは、僕は達成することができなかったし、ISU(国際スケート連盟)公認の初めての4回転半の成功者にはなれませんでした。終わってしまった夢かもしれません。そういう意味で『いつか終わる夢』」
演目にクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)という夢を追う過程でのジレンマを重ねたという。「感情」「真っ暗」「灯る」「応援」「希望」「怖い」「夢」「独り」「想い」「水面」といった文字が、氷上に浮かんでは流れていった。
「皆さんに期待していただいているのにできない。だけど、やりたいと願う。だけど、もう疲れてやりたくないみたいな。皆さんに応援していただけばいただくほど、自分の気持ちがおろそかになっていって、壊れていって、何も聞きたくなくなって。でも、やっぱり皆さんの期待に応えたい。自分の心の中のジレンマみたいなものを表現したつもりです」
応援を光にたとえつつ、羽生は最後に言った。
「皆さんの応援の光がすごくまぶしくて、でも、皆さんの思いと一緒に滑っている。最終的に皆さんの思いを集めて、自分はまた滑り続けるんだ。みたいなものを、表現したつもりです」
自分の意志で新しい道を切り開く。次の物語を行く。「プロローグ」にふさわしい、決意のプログラムに思えた。(高木 恵)
=敬称略=