羽生結弦さん 6分間練習からの「SEIMEI」に試合同等の緊張感 連載「序章」2

スポーツ報知
羽生結弦さん(写真は2022年7月19日)

 フィギュアスケート男子で2014年ソチ、18年平昌五輪を連覇し、7月にプロ転向した羽生結弦さん(27)が、プロスケーターとしての一歩を踏み出した。4日に横浜市のぴあアリーナMMで開幕したアイスショー「プロローグ」で自ら総合演出し単独公演を行った。羽生さんの新たな船出となった4日のアイスショーを、スポーツ報知では「序章」と題し、特別連載を4回にわたり掲載する。

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 暗転したリンクに羽生結弦が現れた。

 「シュッ、パッ」

 試合の演技直前と同じ、ジャンプ動作を確認する声がはっきりと聞こえた。フォルムはぼんやりと見えた。「オープニング衣装にしては随分と地味めなチョイスでは」と思ったと同時に、スポットライトが羽生を照らした。上は白のジャージー。すぐに納得。そう来たかと。

 「ただ今より6分間練習を開始します。選手は練習を始めてください」とアナウンスが流れた。場内が明るくなった。試合さながらのスタート。これは羽生のアイデアだった。

 「正直どういう反応をしていただけるか、また僕自身も6分間練習を試合の場ではない中でやるということで、どれくらいちゃんと集中できるかってことも不安で仕方なかったんですけど。まず1日目をやり抜いた感想としては、皆さん本当に充実した表情だったりとか、反応をいただけていたと思うので。そういった意味では成功したんじゃないかなと思ってはいます」

 緊張感あふれる真剣な表情で、スケーティングや4回転ジャンプを確認していった。場内のスクリーンには練習中の羽生の姿が映された。右隅には残り時間の表示。羽生がジャンプを跳べば拍手が起こる。すべてが競技会と同じだった。

 開始2分後にジャージーを脱いだ。「SEIMEI」の衣装に会場がどよめいた。プーさんのティッシュケースが置かれたリンクサイドで時折ドリンクを口に含む。ルーチンも同じ。「1番、羽生結弦さん」。毎度、手汗が噴き出る、おなじみのコールでスタート位置についた。

 プロ初のアイスショーで最初に演じたのは代表曲の「SEIMEI」だった。ラストかアンコールに持ってくるであろうと勝手に予想した、あの「SEIMEI」だった。サルコー、トウループの4回転、3回転半、3回転半―3回転トウループ、3回転半―オイラー―3回転サルコーを決めた。試合では同じジャンプは2種類2回(1種類に限り4回転が可能)までというルールがある。あえて羽生はトリプルアクセルを3度跳んだ。

 「『SEIMEI』に関しては完全に、平昌オリンピックを思い出しながらやらせていただきました。構成としては実際4分7秒ぐらいのものになっていて、ジャンプの本数はちょっと少なくなっていますけど。あえてプロになったからこそできる、本来だったらキックアウトかもしれないけど、プロだからこそできるトリプルアクセル3発みたいなことをやってみました」

 もう見る機会はないと思っていた6分間練習からの「SEIMEI」。この流れに、競技会と同等の緊張感が凝縮されていた。手に汗握り、ノートに書く文字は乱れる。まさかこの感覚をまた味わえるとは。にやける顔を必死に引き締めた。(高木 恵)

=敬称略=

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