フィギュアスケート男子で2014年ソチ、18年平昌五輪を連覇し、7月にプロ転向した羽生結弦さん(27)が、プロスケーターとしての一歩を踏み出した。4日に横浜市のぴあアリーナMMで開幕したアイスショー「プロローグ」で自ら総合演出し単独公演を行った。羽生さんの新たな船出となった4日のアイスショーを、スポーツ報知では「序章」と題し、特別連載を4回にわたり掲載する。
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羽生結弦が見せたいものと、ファンが見たいものが完全に合致していた。琴線に触れるセットリスト。ドキュメントフィルムのような映像。滑りと一体化したプロジェクションマッピング。プロとして歩み出した第2章の、圧倒的で完璧な90分のプロローグだった。
「経験してきたことだったり、皆さんに力をもらってきたことだったり、そういったものをまた改めて皆さんと共有しながら、次のステップにつながるようにという思いを込めてこのショーを企画、構成しました」
アイスショーは複数のスケーターで順番に滑ることが慣例。今回、出演者は1人だけ。トーク多め? そんなことを考えた自分を恥じた。これまでもそうだった。羽生結弦はいつだって、想像を超えてくる。演目の間隔は5~8分。初日の4日はリクエストの2曲を含む8プログラムをほぼ無休で演じた。美しい4回転も跳んだ。
「妥協せずに、みなさんにお見せできるものが出来上がったなと思っています」
プロデューサーとして、演者として「質」にこだわった。ショーは小さめのリンクで開催されることがほとんどだが、競技用の60メートル×30メートルに限りなく近いサイズをリクエストした。今回のリンクは55メートル×24メートル。上質な競技プログラムを届けるためだった。一人で滑りきるため、競技者時代よりもきつい練習を自分に課した。
「体力強化は本当に大変でした。普通は僕、一つのプログラムに全力を尽くしきってしまうので、その後にまた滑ることは考えられなかったんですけど。でもなんとか、ここまで体力をつけることができたなと自分では思っています」
7月19日にプロ宣言してから約3か月。少ない準備期間で作り上げた新しいショーには、プロスケーターとしてのプライドが詰まっていた。幼少期、東日本大震災、ジャンプの転倒、ケガ、五輪の表彰台での笑顔。演目間に流れた映像に、すべての道のりがあった。
今改めて、プロ転向会見での言葉を思い出す。
「これからも期待してやってくださいって、胸張って言えます」
ショーの終わりに真っ先に生まれた感情は、今も羽生結弦がスケートを続けてくれていることへの感謝だった。(高木 恵)
=敬称略=