「鎌倉殿の13人」で最高で最悪の別れを演じた横田栄司と柿澤勇人…3年前の舞台でまかれていた三谷マジックの種

スポーツ報知
「鎌倉殿の13人」第41話「義盛、お前に罪はない」で見事な退場劇を演じ切った和田義盛役の横田栄司

 俳優の惜別ツイートについた「いいね!」が5万超。過去、こんなにも愛されたドラマの登場人物がいただろうか―。

 小栗旬(39)が鎌倉時代の第2代執権・北条義時を演じるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜・後8時)の第41話が10月30日に放送された。

 序盤から「強くて、優しくて、愛嬌があって」―。最強のコメディーリリーフとして、なんとも憎めない存在だった横田栄司(51)演じる有力御家人・和田義盛が壮絶な討ち死に。血で血を洗う御家人同士のバトルロワイヤルも最終盤。史実上起こったこととして理解はしていても多くの視聴者が、その最期に涙を禁じ得ない回となった。

 鎌倉最大の激戦・和田合戦をど迫力の合戦シーンとともに描いた、この回。クライマックスでは、義時は義盛をおびき出すため、柿澤勇人(35)演じる源実朝を「鎌倉殿にも陣頭に立っていただきます」という名目で利用。互いに信頼し合う間柄だけに「勝敗は決した。おとなしく降参せよ」と涙ながらに訴えかける実朝に「俺は羽林(実朝)が憎くて、こんなことをやったんじゃねえんだ」と義盛。

 実朝の涙顔での「おまえに罪はない。私にはおまえがいるのだ」という絶叫に義盛が「そのお言葉を聞けただけで満足です。みんな、聞いたか? これほどまでに鎌倉殿と心が通じ合った御家人が他にいたか? 我こそは鎌倉随一の忠臣じゃ」と絶叫した瞬間、四方八方から矢が放たれた。

 「よせー!」と絶叫する実朝の目の前で、微笑みながら「羽林…」とつぶやき、絶命する義盛―。「死ぬどんどん」の異名も持つブラック大河の真骨頂とも言える義時の狡猾ぶりに放送直後からネットは沸騰。「和田殿ー! こんな残酷なことある?」、「和田殿の退場に泣く 三谷さん、鬼か?」、「小四郎が鬼過ぎて、もう笑うしかない」などの声があふれた。

 私自身、覚悟はした上でリアルタイム視聴したものの、三谷幸喜氏(61)のオリジナルと思われる義時による残酷過ぎるだまし討ちにややげんなりしているところに一服の清涼剤のように飛び込んできたのが、見事な“退場劇”を演じ切った横田の言葉だった。

 放送終了直後に更新したツイッターで横田は「『もうちょっと生きようぜ。楽しいこともあるぞ』36話での義盛の台詞です。皆さまにとってこのドラマが、明日への希望や活力になるよう願っています」とつづると、「義盛を愛して下さった皆さま、ありがとうございました。どうか最後まで小四郎の生き様を見届けてやってください。お願いいたします」と感謝の言葉を続けた。

 このツイートには、1日で5万件を超える「いいね!」が押され、530件を超えるコメントが殺到。「こちらこそありがとうございます。熱演に感動し、涙しました」、「こんなに可愛げのある愛らしい、まっすぐな和田義盛をありがとうございました」など、現在、療養中のベテラン俳優への感謝のコメントが並んだ。

 異例とも言える俳優の“惜別ツイート”への温かい言葉の嵐。横田と視聴者の言葉のやり取りをじっくり読んだ時、私はここまで一俳優、そして視聴者に1人の登場人物・和田義盛に感情移入させる「三谷マジック」の凄みを感じた。

 同時に、私の記憶は3年前の東京・世田谷での一つの芝居の場へとタイムスリップしていた。

 2019年9月、世田谷パブリックシアターで仕事抜きに一演劇ファンとして見た三谷さん作、演出の舞台「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」。19世紀のロンドンを舞台にまだ名探偵になる前の若かりし日のホームズを主人公とした物語。柿澤はシャーロックを、横田はその兄・マイクロフト・ホームズを演じていた。

 別の舞台でも何度か見ていた柿澤しかできない繊細な演技に魅了される一方、初見だったが、マイクロフトという一癖も二癖もあるいけ好かない人物を抜群の存在感で演じた横田に「ああ、こんなにすごい俳優さんもいるんだ…」と心底、驚いた記憶がある。

 そう、演じる俳優をあらかじめ想定して脚本を仕立てる三谷さん流の「当て書」手法がこの舞台でもさく裂。共に抜群の頭脳を持ちながら相容れず、同じように「兄弟離れ」ができていない複雑な兄弟を柿澤と横田は完璧に演じ切っていた。

 あれから3年。柿澤は女性を愛せない自分に人知れず悩み続けるナイーブな実朝を、横田は剛胆で粗雑ながら笑顔ににじみ出る優しさで誰からも愛される義盛を「演じるのはこの人しかない」と誰もが納得するフィット感で演じ切った。

 脇役も含め登場人物一人一人の人生、人柄を丁寧に、詳細に、魅力的に描く三谷脚本。だから、菅田将暉(29)演じた源義経や中村獅童(49)演じた梶原景時らの複雑かつ魅力的な横顔に視聴者は何週にも渡って魅了された上で、1週後には斬首され首桶に入って登場する残酷さに衝撃を受け、心をこれでもかと揺さぶられる。誅殺された佐藤浩市(61)演じた上総広常、最後に人間味を垣間見せた末に惨死した梶原善(56)演じた「アサシン」善児―。退場していった主要キャスト、みんな、そうだった。

 初監督映画「ラヂオの時間」で第22回報知映画賞で作品賞に輝いた97年11月。映画担当記者として当時36歳だった三谷さんの受賞者インタビューに臨んだ私に、三谷さんはこう言った。「俳優、スタッフに支えられたからこそできた作品。作品賞と聞いた時はうれしかったですよ」―。

 そう、一人一人の俳優に寄り添い、愛情を注ぎつつ、物語にたっぷりコミットさせた上で、見せ場たっぷりに退場させる。そんな、三谷流作劇の手法のもと描かれた今大河最高の場面とも言える実朝と義盛の別れの場面。三谷さんが2年前以上の大河準備期間からこの日の実朝と義盛の別れの場面に誰が最もマッチするのか―。それを想定した上で柿澤と横田のキャスティングに動き出したことは間違いない。今回の名場面の種は確実に3年前の劇場で、まかれていたのだ。

 そして、次に退場していくのは、既に義時への反発の態度をあらわにしてしまった実朝。三谷さんがその死をどう描くのか―。放送を心待ちにする反面、あまりの怖さで目を伏せそうになる自分もいる。(記者コラム・中村 健吾)

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