◆プロボクシング ▽WBC、WBA世界ライトフライ級(48・9キロ以下)王座統一戦12回戦 〇寺地拳四朗 7回TKO 京口紘人●(11月1日、さいたまスーパーアリーナ)
2012年に国内初となった2団体王座統一戦を戦った元世界3階級王者の八重樫東氏(39)が、ライトフライ級王座統一戦の観戦記を寄せた。当時、WBC世界ミニマム級王者・井岡一翔と拳を交わした記憶をたどり、決戦に臨んだ京口と寺地の思いをつづった。
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緊張感ある、いい雰囲気の試合でした。打ち合いを見たいと思っていたが、両者とも闘志をぶつけ合った。5回にダウンした京口君は猛反撃し、拳四朗君を追い詰めた。意地がそうさせたのだろうが、これぞ日本人王者対決だと思いました。簡単にはいきません。
10年前の統一戦を思い返すと、僕は何度も負けてから王者になったこともあり、背負うものはなかった。逆に井岡君は7戦で世界を取り、「天才」と言われ、いろんなプレッシャーがあったはず。当時、僕は世界戦で外国人選手としか対戦していなかった。攻め立てると心が折れやすい外国人選手に対し、日本人選手は、そうはいかないんです。
翻って、今回の2人はどうか。拳四朗君は連続防衛は途切れたが、再びベルトを取り戻した経験則がある。京口君には海外での連続防衛で無敗を守ったという経験則がある。くぐってきた修羅場の数は同じ。立ち位置は変わらないと感じた。
ただ、試合前の予想は全く立てられなかった。拳四朗君サイドのせいと言っていい。前回の矢吹戦でインファイトを展開した。そもそも、拳四朗君の武器は「足」と「前の手」で、それは突出したもの。それに、こんな戦いのパターンもあるという“引き出し”を見せた。対戦相手に「今度はどう来るか」という疑問を持たせることができる。
京口君は、とがった一本槍(やり)で自分のボクシングを貫く―というイメージ。海外で続けてKO勝ちしたという自負があり、相手を抑える自信があったのでしょう。一方、拳四朗君を指導する加藤健太トレーナーは多彩なプランを駆使する。京口君が槍を貫いて勝つのか、いろんな武器を装備した拳四朗君が勝つのかとゴングを待ちました。
試合を通じて「拳四朗君はこんな強かったのか」とか、「京口君はすごく頑張った」とかいろんな見方があると思う。一つ言えるのは、2人ともリスペクトできるし、期待以上の熱戦を見せてくれました。(元世界3階級王者・八重樫東)
◆八重樫 東(やえがし・あきら)1983年2月25日、岩手県生まれ。39歳。黒沢尻工高―拓大。アマ戦績は56勝(15KO・RSC)14敗。2005年にプロデビュー。11年にWBA世界ミニマム級王座、13年にWBC世界フライ級、15年にIBF世界ライトフライ級王座を獲得し、世界3階級制覇を達成。20年に現役引退。通算戦績は28勝(16KO)7敗。現在は大橋ジムのトレーナー、テレビ解説者などを務める。