テレビ局のタブーを正面から描くガチなドラマ…長澤まさみ主演「エルピス」の挑戦に高まる期待と不安

スポーツ報知
フジテレビ系ドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」の制作発表に出席した際の(左から)眞栄田郷敦、長澤まさみ、鈴木亮平、渡辺あや氏

 テレビ局のタブーだって、権力の持つ闇だって真っ正面から描く―。制作陣の気合がダイレクトに伝わってくるこんなに骨太なドラマは久しぶりに見た。

 それが24日放送の長澤まさみ(35)主演の関西テレビ制作、フジテレビ系ドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」(月曜・午後10時)の初回をリアルタイム視聴した感想だった。

 25日に発表された初回の世帯視聴率は8・0%、個人視聴率は4・4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、やや平凡なものだったが、内容は全く平凡ではなかった。

 主人公は架空のキー局・大洋テレビのアナウンサー・浅川恵那(長澤)。入社当初は抜群のルックスで「10年に1人の逸材」ともてはやされ、ゴールデンタイムのニュース番組のサブキャスターにも抜てきされたが、週刊誌に路上キス写真をキャッチされ降板。今や社内から「終わった人」と揶揄(やゆ)されながら制作者の墓場と言われる深夜の情報番組「フライデーボンボン」のコーナーMCを担当している。

 抜け殻のように生きている浅川に眞栄田郷敦(22)演じる若手ディレクター・岸本拓朗が「一緒に取材を」と持ちかけたのが、容疑者とされた男の死刑が最高裁で確定した女性連続殺人事件の真相の追及。冤罪(えんざい)疑惑を追う中、浅川は路上キスの相手である報道局のエース記者、鈴木亮平(39)演じる斎藤正一と協力して、自己再生のためにも立ち上がる―。

 あらすじはこんなところだが、何しろ一つ一つの場面がエグい。

 報道局から飛ばされた「フライデーボンボン」のチーフプロデューサーは口を開けば、セクハラ、パワハラ発言のオンパレード。岸本が冤罪事件を追う企画書を出せば、「テレビがこんなものを追ったら、巨大な力に潰されるんだよ」と本音まで漏らす。一方で岸本ら若手ディレクターたちは露骨に出演者のグラドルたちを狙っていたりする。

 三浦貴大(36)演じる報道局デスクも次々と飛び込んでくるニュース原稿の処理に忙殺され、とても冤罪の調査報道などに目が向けられない。

 一番すごかったのは、おしゃれなハットをかぶったダミ声の副総理が生番組出演のため、大名行列のように局入りするシーン。官邸キャップ・斎藤に恭しく出迎えられると、「今日、何を聞かれるんだ?」と上から目線で質問。「ざっくり公約まわりですね」と答えた斎藤は続けて「森友(関連の質問は)は止めてますんで」とポツリ。

 ほぼ、自民党の大物の“あの人”にしか見えない副総理のルックス、さらに「森友」という具体名にドキリとさせられた。

 テレビ局の取材をしていると肌感覚で見えてくることもある旧態依然とした部分を、どこか露悪的なまでに描く脚本。さらにエンドロールでは、参考文献として足利事件の冤罪被害者・菅家利和さんの著書「冤罪 ある日、私は犯人にされた」始め9冊もの冤罪事件関連の書籍名がクレジットされる硬派ぶりだった。

 長澤にとって18年4月期のフジテレビ系「コンフィデンスマンJP」以来、4年半ぶりの連続ドラマ出演で話題となった同作だが、私は発表の段階でプロデューサー・佐野亜裕美、脚本・渡辺あやという名前を見た瞬間に心が躍っていた。

 佐野さんは放送のたびにSNSを賑わせた17年1月期放送のTBS系「カルテット」、21年4月期の関西テレビ制作、フジ系「大豆田とわ子と三人の元夫」を手がけ、渡辺さんは寡作ながら映画「ジョゼと虎と魚たち」、「天然コケッコー」や11年下半期のNHK朝ドラ「カーネーション」などの名作で知られる脚本家だ。

 中でも佐野さんはTBSの社員プロデューサーを務めていたものの、どうしても手がけたい企画を通すために退社。関西テレビに移籍した経歴を持つ。実際、「エルピス」もTBS時代に構想も制作が実現しなかった企画の1本だ。

 制作者としての執念のもと6年かけ、移籍してまでドラマ化にこぎつけた佐野さんに私が直接会ったのは一度だけ。17年にTBS局内で行われた記者懇親会の席上だった。初対面で「カルテット」の素晴らしさをまくし立てる私の言葉を微笑みながら嬉しそうに受け止めてくれたのを覚えている。

 その場でも控えめながら芯の強さも確かに伝わってきたガチな「ザ・プロデューサー」が有能な脚本家と組んで、テレビ業界のタブーに加え、冤罪報道、有力政治家との関係と言ったテレビ局の抱えるタブーに正面から挑む作品。それが「エルピス」だと思う。

 佐野さんは初回の放送終了後、自身のツイッターでこう、つぶやいた。

 「初回の放送が無事終わって、なんだか現実感がない。放送が決まってないのに脚本を書いてもらう、というのは本来は絶対してはいけないことで、あの頃の自分に殴りかかりたい気持ちでいっぱいだけど、これを世に出せなかったらもう制作者ではいられないと思いながら日々過ごしてきたので、ほんの少しだけ」―。

 題名の「エルピス(Elpis)」とは古代ギリシャ神話で中から様々な災厄が飛び出したと伝えられる「パンドラの箱」に唯一、残されていたものとされる。良きことの予測として「希望」、悪しきことや災いの予測として「予兆・予見」とも訳される言葉だ。

 「これを世に出せなかったらもう制作者ではいられない」―。プロデューサーがこんな気持ちで「パンドラの箱」を開け、制作者生命をかけて作ったドラマが面白くないわけがない。初回をまさに固唾(かたず)をのんで見守った私は、そう思った。

 同時にあまりにもリアルなテレビ局の内幕描写、政治権力の戯画化、冤罪事件の描写に不安も覚えた。今後、変なハレーションや妨害がないまま全10話、最後まで見届けたい―。今は心底、そう思っている。(記者コラム・中村 健吾)

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