放映権高騰、コロナ禍でチケット収益減少…スポーツ中継が地上波からネット配信へ主役交代の理由

サッカーW杯アジア最終予選
サッカーW杯アジア最終予選
井上尚弥―ドネア戦
井上尚弥―ドネア戦

 サッカーW杯やプロ野球、ボクシングの世界タイトルマッチなど近年の人気スポーツの放送はネット配信が当たり前になった。人々の暮らしも多様化する中、時間や場所にとらわれず視聴できるのが一番の魅力だ。一方で、地上波で視聴できる機会も減っている。スポーツ配信に力を入れる主なネットメディアのABEMA、DAZN、アマゾンプライム・ビデオ、それぞれの思惑に迫った。

 人気スポーツの中継は地上波テレビよりネット配信で追う―。そんな肌感覚の人も少なくないだろう。11月20日開幕のサッカーW杯カタール大会は地上波放送が42試合あるものの、ABEMAが全64試合の無料生中継を実施する。ネット配信メディアが国内で定着してきたことは2016年に日本に上陸したDAZNの躍進を見るとよく分かる。

 Jリーグやプロ野球を扱う同社の配信コンテンツ数は、全世界で6年前の約8・5倍、日本国内も比例して配信数が1万2000に増えた。総ストリーミング時間は、この6年で約10億時間、そのうち2・2億時間以上を日本が占める。6年前と比べ、国内の利用数も270倍になったという。

 一つの転機は、3月まで行われたサッカーW杯アジア最終予選だ。ホーム戦は地上波のテレビ朝日が放送したが、アウェー戦はDAZNが独占放映した。背景にあるのが放映権の高騰だ。アジアサッカー連盟(AFC)は05年にテレビ朝日と4年90億円で契約したが、放映権は徐々に高騰。3度の契約更新を経て20年には8年2000億円規模に。契約は見送られ、DAZNが放映権を獲得した。

 一時期、最終予選の一部が地上波放送されないことに嘆きの声も多く上がった。一方で、スポーツの公共性を保つために有料放送の独占放送を禁止する英国など欧州のような法律規制は日本にはない。

 こうした状況をメディア産業論で著名な大正大の松崎泰弘教授(60)は「地上波からネット配信へ、主役が交代してきている」と指摘する。拍車をかけたのが新型コロナの世界的な流行だ。イベントの運営形態も変化した。無観客試合をきっかけに、松崎氏は「主催者側がチケットの販売だけで稼ぐ時代ではなくなったと考え出した」と説明。スタジアムに行けない観客が求める中継に特化しビジネスを見いだしてきた。

 日本でもそうした流れに乗った資金力を持つ企業のスポーツ中継参入が著しい。ABEMAが今季のイングランド・プレミアリーグ放映権を一部取得。ファンが注目するビッグマッチや日本人選手所属クラブの試合を中心に、全試合の約3分の1にあたる114試合を一部有料で配信している。

 プロボクシング放送で一気に主導権を握ったのがアマゾンプライム・ビデオだ。4月の村田諒太の2団体王座統一戦でスポーツ中継に初参入し、来月1日には寺地拳四朗―京口紘人の統一戦を生配信する。

 世界戦中継は地上波が定番だったが、テレビ局関係者は「スポーツ中継は赤字が多い。昔ほど経費がない中、放映権が高騰し取捨選択を迫られた結果。危機感は強い」と厳しい現実を明かす。無料のテレビから発信し、世間に話題を提供する、旧来型の「受け身視聴の強み」は、普及や競技人口の底辺底上げに寄与するともいわれる。

 収益と人気普及の両立は以前にも増して難しくなっている。有料ネット配信も抱える課題があり、松崎氏は「日本は海外と比べてコアなファンがそこまで多くない。取り込める層に限りがある」と話す。

 視聴者とスポーツ中継の新しいあり方。ターニングポイントの一つは約1か月後に迫ったサッカーW杯だろう。「W杯は今後に向けた試金石となる」と松崎氏。全世界注視のスポーツの祭典を経て日本のスポーツ中継が、新たなステップを踏む。(取材・構成=小口 瑞乃、高木 恵)

 ◆アマゾン、プロボクシング世界戦で圧倒的存在感

 プロボクシング世界戦のライブ配信で圧倒的な存在感を示す。4月に村田諒太が出場した世界ミドル級王座統一戦は15年9月のサービス開始以降歴代トップの視聴数を獲得し、6月に井上尚弥が2回TKOで制した世界バンタム級王座統一戦で記録を塗り替えた。価格設定は月会費500円、年会費4900円。「価格が高いとライトなファンは見なくなったり、新しいファンが育ちにくくなる」と同社。低価格を売りにしたファン開拓とビジネスの両立を目指す。「ボクシングは季節性がないので、我々のような後発で参入するサービスにもチャンスがあった。動画配信は地上波放送と比べ、どのような試合時間にもフレキシブルな対応ができる」と強みを主張した。

 ◆DAZN、野球サッカーゴルフなど幅広く対応

 スポーツ配信のパイオニアは日本では16年にサービスを開始。サッカーW杯アジア予選で日本代表の全試合を配信し、10試合中6試合が過去の国内視聴で歴代トップ10に入った。近年はプロ野球、サッカーだけでなく、ゴルフの海外メジャーに進出し、今年は全米オープン、全米プロ選手権、全米女子オープンをライブで中継している。2月に利用料金を月額1925円から3000円に値上げしたが、「最初の5年間は投資期間と掲げてきた。この期間に値上げは行っておらず、今回が初めて。今後もサービスの成長とともに、価格に値するコンテンツを届けたい」と同社。投資期間を終え、新たなステージを見据えている。

 ◆ABEMA、サッカーW杯全64試合無料生中継

 カタールW杯の全64試合を無料で生中継。スポーツエンタメ局の塚本泰隆局長は無料放送の思惑を「中長期的なプロジェクトとして捉えている」と説明した。放映権の取得額は高額が予想されるが「過去最高としか言えない」と同局長。それでも無料配信の決断に迷いはなかったという。ABEMAの認知度や視聴数の底上げが主な目的とし「世の中が見たいと思うものをしっかり届けるサービスでありたい。存在を知ってもらうきっかけになることで、今後の発展にもつながる」と成功に自信を示した。8月からイングランド・プレミアリーグの配信も開始。W杯までにコンテンツの基盤を作り、機運を高める狙いがある。

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