◆明治安田生命J2リーグ▽第33節 大宮1―1山形(5日・NACK5スタジアム大宮)
一瞬の迷いを振り払い、前線へ爆走した。0―1の後半44分。大宮MF大山啓輔は味方の縦パスを相手に背後から激しく寄せられても倒れずに左サイドへはたき、「足は速くないのでランニングは苦手だけど、オトリでもいいから走ろうと思った」。一度カットされたパスを奪い返し、後方から走り込んだMF小島幹敏へラストパス。土壇場で同点ゴールをアシストした。
負傷したFW山崎倫に代わって途中出場から2分後。大山の1本のパスが敗戦間近のチームを救った。今季初ゴールの小島は「めちゃくちゃ優しいパスだった。雨で下(ピッチ)がぬれてるのもあって、フワンと浮かして落としてくれた」。相馬直樹監督も「急所をつくようなパスを高い位置で出せたのは大きかった」と絶賛した。
ゲームメイクやボール奪取を武器にボランチを本職とする大山は、「練習ではほとんどやっていない」と話す左サイドハーフ(SH)でピッチへ。これまでリードや同点の場面で守備を求められての投入が多かったが、ビハインドでの出場は「想定外だった」。それでも、攻撃参加しすぎるとスペースを空けてしまうボランチではなく、攻撃的なSHで出たからこそ感じたプレー意識の変化があった。
「ミスを減らすより、よりゴールを意識したチャレンジングなプレーができる。無我夢中の感覚に近い。あのポジションで僕は失うものがない。思いっきり、その瞬間の温度でやっちゃっていいのかなと」と、がむしゃらに前線へスプリントした。「浮き球のボールをデカいDFラインに放り込むより、下のボールの方が確実。1タッチで打てるようなところに出そうと思った。完璧に近い? そうですね」。ラストパスを自画自賛した。
今季の出場21試合のうち、先発は10試合。大山はベンチ外やサブにまわることが多いが、この日は本職でないポジションでも結果を残した。「自分が何をしたいかより、チームとして何をしてほしいかを最優先に入った。僕は求められてることをやらないと自分の価値は出ない。スペシャルなものがある選手じゃないので、チームに必要なことは何かを常に察知しようと思っている」と話した。
シーズン終盤になれば、順位やチーム状況、試合の時間帯によってそれぞれの選手の役割は変化する。小学6年から大宮の下部組織で育ち、クラブ一筋の27歳。J2残留のサバイバルを勝ち抜かなければいけないクラブにおいて、出番が限られている状況でもチームで求められる役割を愚直にこなせる存在は大きい。
0―1のままなら3連敗―。リーグ残り3戦でJ3降格圏の21位・岩手と勝ち点4差で迎える状況を、同5差に広げる貴重な1ゴールを演出した。「しっかり(勝ち点)1をもぎとれたのは、半歩前へ進めた」と大山。史上初のJ3降格を回避するべく、残留にむけて半歩ずつでも前進していく。(大宮担当・星野浩司)