今月1日に心不全のため79歳で亡くなった元参院議員で元プロレスラーのアントニオ猪木さんの最後の夢が5日、分かった。
猪木さんは、世界的に問題になっているゴミによる環境汚染対策として2019年から「水プラズマ」を使った廃棄物処理の実現へ動いていた。通常、ゴミ処理は、燃やすと二酸化炭素が発生し環境汚染につながるが温度が1万度以上にも達する水プラズマを使えば、瞬時にゴミは消滅し水素に変化し環境面においてさまざまな応用が期待されている。
この「水プラズマ」は九州大学の渡辺隆行教授が開発し、神奈川の湘南台に本社を置く産業廃棄物の処理装置を開発する「Helix」社と組んだ革新的な技術。猪木さんはテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」で渡辺教授の「水プラズマ」が紹介された放送を見て自ら電話をかけてコンタクト。以来、2人は交流が生まれた。ゴミ焼却で二酸化炭素を排出しない「水プラズマ」。渡辺教授との出会いから猪木さんは晩年、一貫して「世界のゴミ問題を解決するには、この技術しかない」と実用化へ情熱を注ぎ込んできた。
その猪木さんの夢が披露されたのが2020年10月31日だった。猪木さんは、横浜市のみなとみらいエリア日本丸メモリアルパークで水プラズマの初の公開実験を行ったのだ。「INOKI Lab(猪木ラボ)」号と名付けた実験トラックで長さ80センチの鉄がわずか5秒で半分ほどが消え実験は成功し「100点です」と胸を張っていた。
スポーツ報知は5日、「水プラズマ」を開発した渡辺教授を取材。渡辺氏は8月11日に都内の自宅での最後に面会したことを明かし、この時に猪木さんから「水プラズマ」の家庭への普及を要望されたことを明かした。
「ここ数年は、猪木さんが入院されたこともあって、しかもコロナでお会いできなくて電話でお話をさせていただいていたんですが、猪木さんは入院された時も水プラズマへの情熱がすごく熱くていろんなご提案をいただきました」
そして最後の対面となった8月11日に猪木さんは渡辺教授へひとつの要望を行っていた。
「この時に猪木さんから『トラックは大きいからダメだ。戦略を考えろ』とおっしゃっていただいて具体的に『家庭でも使えるような小型のものを作ってみたらどうか』と宿題をいただきました。それは、まったく正しいお考えでした」
2年前に公開実験した20トントラックに乗った「水プラズマ」装置は、200キロワットで10メートルを超える巨大なもの。猪木さんは、世界的なゴミ問題を解決するためには、家庭への普及が第一と考え、渡辺教授へ小型化への改良を求めたのだ。渡辺氏は明かす。
「実は2008年に私は、大きさは、30センチほどで1キロワットの装置を100万円ぐらいで作って写真を撮っていたので、それを猪木さんに見せるために準備をして持って行くところでした」
その後、8月21日に猪木さんから電話が入り「小型化、一般家庭でも使えるヤツはどうなった?」と聞かれたという。渡辺教授は「8月11日にお会いした時は、2、3時間ずっとお話ししていたんですが、最後のお電話は、おっしゃっていることが聞きづらくて半分ぐらいしかわかりませんでした。ただ、最後まで水プラズマへの情熱は熱かったです」と明かした。
ゴミ問題解決へ小型化した「水プラズマ」の一般家庭への普及。これこそが猪木さんが描いた人生最後の夢だった。
猪木さんは生前、世界の中でも特にフィリピンのゴミ問題解決を訴えていた。渡辺教授は、猪木さんの夢の実現へ「猪木ラボをフィリピンへ輸出することも進んでいます」と明かし、小型化の実用化について「装置はできているんですが、コストの問題が難しいんです。でも、猪木さんの名前でかなり問い合わせがきています」と話した。
渡辺教授は猪木さんとの出会いを「子どもの頃からあこがれの方でした。お会いした時も信じられませんでした。ただ、お会いするとフィリピンのスラムのゴミとか世界のゴミ問題の解決への情熱をずっと訴えられていました。私にとって猪木さんは哲学者であり、人生の師匠でした。ですから私は猪木さんのことを『先生』とお呼びしていました。今でもお会いできたことが信じられません」と声を震わせていた。
そして猪木さんへ「まずは謝りたい。猪木さんが元気なうちに世の中に猪木ラボを広められなかったことは申し訳ありませんでした、と。まず言いたい。だけども猪木ラボは、猪木さんの熱い思いと共にもっと世界に広げていきます」と誓っていた。
(福留 崇広)