【巨人】井上温大、4度目先発でつかんだ初勝利…今季限りで現役引退の師匠・内海哲也に最高の恩返し

スポーツ報知
4回、吠えながら投球する井上温大(カメラ・中島 傑)

◆JERAセ・リーグ 中日3―9巨人(23日・バンテリンドーム)

 巨人・井上温大投手(21)が4度目の先発で待望のプロ初勝利を挙げた。中日打線を相手に6回7安打3失点。今季の巨人ではプロ野球最多となるシーズン8人目の初白星となった。打線も吉川尚輝内野手(27)が2安打3打点と左腕を援護。坂本勇人内野手(33)は福本豊、松井稼頭央に並ぶ歴代5位に浮上する通算178度目の猛打賞をマークした。4位・広島、阪神とのゲーム差を1・5とし、残り4試合でクライマックスシリーズ(CS)進出を目指す。

 4度目の先発登板で待ちに待った瞬間が訪れた。少しはにかみながら、井上はお立ち台でフラッシュを浴びた。6回7安打3失点でプロ初勝利。05年中日、17年オリックスの7人を抜いて、プロ野球新記録となるチーム8人目の初勝利をつかみ、「自分の持ち味である直球を中心にしっかりと投げ込むことができました」。ウィニングボールは家族に贈ることを約束した。

 反省を生かし、結果につなげた。過去3度の先発登板のデータから、結果球は内角を打たれる傾向があった。広く、長打が出にくい敵地の傾向を理解した上で外角直球を勝負球に選んだ。最速は149キロ。「持ち味の直球が投げ分けられれば、こういう結果になるんだと」。6回の2失点は反省したが、初のクオリティースタート(6回以上自責3以下)と役目を果たした。

 19年ドラフト4位で入団。夢の世界へ飛び込んだが、順風満帆とは言えなかった。昨年5月に左肘頭スクリュー挿入術を受け、今季は育成選手で再出発。「投げられるようになってきて、力の入れ方を制限されてきてからが難しかった。力を入れ過ぎたら痛くなる。入れないで投げていても、本当にこのままで大丈夫かと不安だった」。苦しいリハビリ期間だったが「自分を見つめ直すためにも必要な時間だった」。1軍の舞台を目指し、一歩一歩進んできた。

 腐らずに練習に取り組めたのは西武・内海との出会いのおかげ。21年から2年連続で自主トレ参加し、「すごく嫌いだった」という走り込みの大切さをたたき込まれた。「終わったらぶっ倒れるぐらい、限界でめっちゃきつかった」。杉内3軍投手コーチは「内海と自主トレに行って、練習で手を抜かなくなったし、練習の重要性が分かってきた」と変化を感じた。マウンドと同じく、一人黙々と走る日々が続いた。意識の変化は、確かな自信と強固な下半身をもたらした。

 一流のすごさを知った。「内海さんはシャドーピッチングをすごく大切にしていて、自分にとって不利な場面を想像しながらやったらいい、と」。練習一つ一つが試合につながると学んだ。1軍初先発を終えた後には「応援してるよ」と連絡があった。少し時間はかかったが、今季限りで現役引退する師匠の教えを実践し、最高の恩返しができた。

 チームは3位をキープし、4位タイの広島、阪神とのゲーム差を1・5とした。お立ち台では内海への感謝を言いそびれ「言葉が浮かばなくて」と苦笑した21歳は、「これからもどんどん勝って、内海さんに恩返ししていくので見ていてください」と力強く言った。新星が放った輝きが、巨人にさらなる追い風をもたらした。(小島 和之)

 ◆ちょっといい話

 母・友理子さんは、7月16日(対広島・東京D)での1軍初登板後に夜遅くまで感慨深げに幼少期の井上の写真を眺めていた。「懐かしくて長々と見返してしまいました」。思い出すのは小学3年の時に、書いた作文を読む姿だった。

 「お父さんとお母さんが言っていた。失敗は成功のもとと言っていた。だから、ノーヒットノーランもできる。だから僕はプロ野球選手になりたい。ノーヒットノーランをして、お父さんとお母さんに恩返しをしたいな」

 「あの時に“あぁこの子はプロ野球選手になるのかな”と思いました」。19年にドラフト4位で巨人入りしたが、昨年5月に左肘頭スクリュー挿入術を受け、育成選手も経験。「心配でもあり、やっとここまでこれたんだという安堵(あんど)もあり、興奮もありの瞬間でした」。数々の失敗を乗り越え、1勝目を挙げた息子の背中は、あの頃よりも大きく、頼もしく見えた。(投手担当・水上 智恵)

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