大仁田厚が16歳の新弟子に帰った日…全日本プロレス50周年大会が見せてくれた合計394歳タッグの幸せな光景

スポーツ報知
18日の全日本プロレス50周年記念大会で渕正信(右)らとスペシャルタッグマッチに出場した大仁田厚(中央は和田京平レフェリー=カメラ・堺 恒志)

 今年3月1日に一足早く50周年の旗揚げ記念日大会を開催したライバル・新日本プロレスとは、ひと味違う温かい空気が漂い続けたメモリアルデーだった。

 1972年にジャイアント馬場さん(99年死去、享年61)によって創設された老舗団体・全日本プロレスの創設50周年記念大会が台風14号直撃の中、東京・日本武道館に4780人の観客を集めて行われた。

 メインイベントとして行われた至宝・三冠ベルトをかけたタイトルマッチ・諏訪魔(45)VS宮原健斗(33)戦以上にコロナ禍の中、声を出しての応援が禁じられた観客たちの大きな拍手を浴びたのが、第8試合として行われた「創立50周年記念スペシャル6人タッグマッチ」だった。

 リング上には、渕正信(68)、越中詩郎(64)、大仁田厚(64)と、それに対峙する形でグレート小鹿(80)、谷津嘉章(66)、井上雅央(52)が登場。6人の年齢は合計394歳だった。

 さらに和田京平名誉レフェリー(67)に木原文人リングアナウンサー(56)と、名門団体の創立以来の歴史を知り尽くす大物がずらりと勢ぞろいした。

 ゴング前には、グレート・カブキさん(74)が2本のヌンチャクでの舞いを披露。74年4月のデビュー以来、全日一筋の渕、馬場さんの付き人を務めた大仁田、全日に入門し、後に新日に移籍した越中。4月に80歳の誕生日を迎えた小鹿は複数回のがん手術を乗り越え、抗がん剤を打ちながら、この日のリングへ。谷津も19年に糖尿病のため右足をひざ下から切断。不屈の精神で、この日も金属製の義足で登場した。

 まずは全員が笑顔で記念撮影。ゴングが鳴ると、越中がお得意のヒップアタックを連発すれば、右ひざの靱帯を痛めている大仁田が井上をダブルアームスープレックスで投げ飛ばす。負けじと小鹿が大仁田の顔面をかきむしり、目つぶしまで披露。谷津も義足の右足で何度もキックを繰り出した。

 最後は越中が井上にコーナーポストからのヒップアタックを見舞うと、セコンドについていたカブキが井上の顔面に毒霧を噴射。グロッギー状態にしたところで渕が必殺のバックドロップを2連発。3カウントを奪った。

 確かに全員が全員、動きはスローモーだった。「ハアハア」と息切れもしていた。それでも、11分55秒、昭和にタイムスリップしたような攻防に、観客は大きな拍手を送り続けた。

 勝者となった渕は自身のテーマソング「デンジャー・ゾーン」が流れる中、マイクを持つと、息を切らしながら「日本武道館、帰ってきました!」と絶叫。「雨の中、ご来場いただきまして、誠にありがとうございます」と深々と頭を下げると「大仁田クン、一言何か」と、全日同期入団も4歳年下の大仁田にマイクを渡した。

 89年のFMW創設以来、インディーの雄として団体トップを張り続けている大仁田も渕に「大仁田クン」と呼ばれた瞬間、全日の新弟子1号だった16歳の一若手の表情に戻った。

 「僕と渕さんは48年の付き合いです。全日本プロレスは50年です」と感慨深げに振り返ると、我に返ったように「雨の中、台風の中、これだけのお客さんが来てくれて、誠にありがとうございます。今日はありがとよ!」と、マイクをリングにたたきつけ、テーマソング「ワイルド・シング」に乗って退場した。

 バックステージでも肩を組んだ渕と大仁田。大仁田が「俺と渕さんと(故ハル)薗田さんは(全日の東京・砧の)合宿組なんですよ」と懐かしむと、渕はメモリアル舞台でのタッグ結成について「うれしいよ。アメリカでも合宿でも、ずっと一緒だったからさ。50周年で(タッグの試合)できてうれしいよ」としみじみ。

 その隣で大仁田は「楽しくて、うれしくて、はしゃごうと思ったけど、はしゃぐと渕さんに怒られちゃうから」と、弟分としての笑顔を見せていた。

 少年に戻ったような大仁田の表情が強く印象に残っていたから、一夜明けた19日、もう一度、夢の舞台について聞いてみた。

 「終始笑顔で本当に楽しそうでしたね」―。

 「これで(観客が)入らなかったら、また、新日本に差をつけられるなって心配したんですけど、上の方まで入っていて、ホッとしました。試合は凶器も場外乱闘もやめよう。正統派で行こうと決めてました」。淡々と振り返ると、「良かったです。いい試合をするだけがプロレスじゃなくて、ただ、そこに存在するというのもプロレスなんです」と、もう二度と実現しないかも知れない夢の6人タッグを振り返った。

 さらに「みんな、いざ、リングに上がると、いいところを見せたくなって動いちゃうんだよね。小鹿さんなんて心配だったよ。谷津さんだって義足だからさ」と、本音もチラリ。

 そんな「涙のカリスマ」以外にもこの夜の武道館には、全日のレジェンドたちが集結。メインイベントの特別立会人を3年ぶりの来日となったスタン・ハンセンさん(73)と小橋建太さん(55)が務める一方、第9試合の世界タッグ選手権試合の立会人としては川田利明さん(58)と田上明さん(61)も登場した。09年にリング上の事故で亡くなった三沢光晴さん(享年46)以外の「四天王」が勢ぞろいしたのだ。

 バックステージでひときわ多くの取材陣に囲まれたハンセンさんは、こんなことを言って笑わせた。

 「これから全日本プロレスは新しい50年に入る。願わくば、50年後まで頑張ってほしいけど、その頃、僕はこの世にいないよね」―。

 50歳を迎えた老舗団体の夢のような一夜を彩った往年のスターたち。台風の雨が一瞬やむ中、武道館を出た私の脳裏にはしばらくの間、大仁田の「ただ、そこに存在するというのもプロレスなんです」という言葉が何度も、何度もこだましていた。(記者コラム・中村 健吾)

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