“死ぬどんどん”続くも視聴者釘付けの「鎌倉殿の13人」…「ちむどんどん」が学ぶべき三谷脚本の人間を描く力

スポーツ報知
次なる“退場者”となりそうな中川大志演じる畠山重忠(右)。小栗旬演じる北条義時もすっかりダークサイド落ちしている

 誰が呼んだか、“死ぬどんどん”―。11日に第35話が放送されるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜・後8時)に何かと批判的意見が目立つ同局の連続テレビ小説「ちむどんどん」(月~土曜・午前8時)のタイトルをもじって、こんな異名がついている。

 私自身、毎週午後6時からのNHK BSプレミアムで放送の“早大河”、遅くとも午後8時からのNHK総合での放送でリアルタイム視聴してきた。それは毎週、本放送終了直後に毎回同じ作品紹介のテンプレート文章とともに、その回、誰がどんな悲劇に見舞われたかを見出しとともに全部書いてしまう一部ネットメディアによる「ネタバレ・テロ」を一視聴者として回避する意味合いもある。

 それにしても、これほど、暗殺、自害、事故死と主要登場人物の死がショッキングに描かれ、放送後、話題になる大河は珍しい。

 第15話で佐藤浩市(61)演じる上総広常が謀反の疑いをかけられて誅殺されて以来、第33話で梶原善(56)演じる「アサシン」善児が最後の最後に人間味を垣間見せた末に惨死するまで、ほぼ毎週、主要人物が物語から退場し続けている。

 ドラマである以上、権力と、その象徴である領地を巡って源氏と坂東武者たちが殺し合いを演じた鎌倉時代の「御家人たちのバトルロイヤル」の歴史は決して変えられない。脚本の三谷幸喜氏(61)も史書「吾妻鏡」などに描かれた史実に善児のような架空の人物も織り交ぜながら、残酷な時代を活写している。

 これほど毎回、主要人物の退場に胃が痛くなり、げんなりともさせられつつも画面から一瞬たりとも目が離せない魅力の根本に三谷氏の書く脚本のパワーがあるのは間違いない。

 もともと、過去2作の大河、2004年の「新選組!」、16年の「真田丸」と群像劇に長けた当代きっての脚本家。それは劇団「東京サンシャインボーイズ」時代の名作舞台「12人の優しい日本人」、「ショウ・マスト・ゴー・オン 幕をおろすな」、名作ドラマ「王様のレストラン」、「HR」などの時代から全く変わらない。

 とにかく、脇役も含め登場人物一人一人の人生、人柄を丁寧に、詳細に、魅力的に描く。だから、菅田将暉(29)演じた源義経や中村獅童(49)演じた梶原景時らの複雑かつ魅力的な横顔に視聴者は何週にも渡って魅了された上で、1週後には斬首され首桶に入って登場する残酷さに衝撃を受け、心を存分に揺さぶられ、引きつけられる。

 執拗なまでに「人を描く」―。三谷氏のその姿勢は、4半世紀前から全く変わっていない。

 初めて話を聞いたのは、初監督映画「ラヂオの時間」が第22回報知映画賞で作品賞に輝いた97年11月のことだった。映画担当記者として当時、36歳だった三谷氏の受賞者インタビューに臨んだが、第一声で「個人的な評価(監督賞)なら辞退していたかも。自分自身が出来に満足していないので、評価されると逆に戸惑ってしまう」と、三谷節がさく裂。当時、舞台の脚本が賞にノミネートされるたびに辞退を繰り返していたのは事実だったが、冒頭、いきなりの発言に大いに驚かされた。

 それでも「スタッフに支えられたからこそできた作品。作品賞と聞いた時はうれしかったですよ」と、やっと笑顔を見せてくれたのを昨日のことのように覚えている。そう、一人一人のスタッフへの思い同様、俳優陣一人一人に見せ場を作り、明らかに愛情を感じつつ、当て書きに近い形でシナリオを紡ぎ出しているのが、その時分かった。

 この文脈で登場させるのは申し訳ないが、三谷氏が「一人一人を魅力的に描く」ことに全力投球している一方、「ちむどんどん」の脚本は一視聴者としても、やはり視聴し続けるのがつらい。

 元参院議員の礒崎陽輔氏のように「許容限度を超えた表現」とまで断罪するつもりはないが、なぜ、ネット上に「ちむどんどん反省会」なるスレッドまで立ってしまっているかをNHKや脚本家は顧みるべきだ。

 半年にわたる長期の脚本を書き続けるのに大いなるエネルギーと筆力が必要なのは分かるが、とにかく、この朝ドラは「人間が描けていない」と思う。

 まるで、直木賞など文学賞選考会の際に選考委員が口にする落選理由のような言葉になってしまったが、「13人―」の登場人物たちが三谷脚本によって生き生きと命を吹き込まれ、だからこそ、その突然の死に視聴者が衝撃を受け続けているのに対して、「ちむどんどん」の登場人物たちは、あたかも物語を動かすための駒のように使われているかのように見える。

 ヒロイン・暢子を演じる黒島結菜(25)始め登場人物たちは毎週起こる事件、出来事に“奉仕”するために突飛な発言をし、行動しているように感じる。個人を描くより、まずは物語の刺激的な展開ありきだから、登場人物たちはつじつまの合わない判断、行動をしたりするし、そのたびに視聴者は戸惑うのだと思う。

 三谷脚本の魅力を伝えるつもりが思わず脱線したが、受信料で作品を作っているNHKだけに毎回、展開への疑問がネット上を騒がす現状に「これでいいのか?」と疑問を感じたのが、正直なところだ。

 「ちむどんどん」が迷走したまま最終コーナーに向かおうとしている一方、「13人―」では、知勇を兼ね備えた「武士の鑑(かがみ)」として名高い中川大志(24)演じる畠山重忠の“退場”の瞬間が、刻一刻と迫っている。

 三谷脚本が、その非業の死をどう描くのか。そして、視聴者の間で、どれほど大きな「畠山ロス」が巻き起こるのか。今、放送が楽しみな反面、どれほどの喪失感が襲ってくるのか。正直、それが心配だ。(記者コラム・中村 健吾)

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