プロレスラー鶴見五郎さんを悼む 自宅に侵入した不審男にまで優しかった悪役レスラーの素顔

スポーツ報知
2010年に取材に対応してくれた鶴見五郎さん

 元プロレスラーの鶴見五郎さんが26日、低血圧と敗血症のため73歳で亡くなった。昭和のプロレス少年だった私が知る鶴見さんは、1980年代初頭、国際プロレスが解散した後、全日本に参戦してマイティ井上や阿修羅・原らとしのぎを削り合ったふてぶてしい悪役レスラー。その鶴見さんをリング以外で取材する機会が突然訪れた。私が文化社会部記者だった2010年4月29日のことだった。

 「プロレスラー鶴見五郎さんの神奈川県茅ケ崎市の自宅に泥酔男が侵入。住居侵入罪の疑いで42歳の会社員を現行犯逮捕」の一報。これは格好のスポーツ新聞社会面ネタだ。すぐに鶴見さん宅へ向かった。取材を申し込むと、ヒール時代に必須アイテムだった竹刀で追っ払われるかと思いきや「ああ、いいよ」。騒動明けで眠たそうな声だったが、拍子抜けするほど気さくに応じてくれた。

 話を聞くと、午前2時ごろ、何者かが侵入しようとする音で目を覚まし、当時25歳だった長男と2人で追跡。30メートルほど離れた自宅裏手の路上で確保し、警察に通報したという。男性は会社帰りにビール2杯、焼酎5、6杯を飲んで酩酊状態だった。もちろんプロレスラーの自宅だとは知らなかった。

 翌日の紙面では「酔っぱらって入った家にプロレスラーいた!」の見出しで面白おかしく報じさせて頂いた。本来なら迷惑千万な話だろうが、自分の身に降りかかったハプニングも、面白がってくれるのは、さすがプロレスラーだ。後日談を聞きたくなり、この年の年末、茅ヶ崎駅前の居酒屋で待ち合わせて、再び会ってもらった。

 現行犯逮捕された男性は送検されたものの、結局は不起訴に。処分が決まってから勤め先の上司とともに鶴見さん宅まで謝りに来たという。男性が手に持っていたのは「解雇処分免除の嘆願書」。鶴見さんは快く署名した。「こちらの被害は寝不足ぐらい。それでクビになっちゃあ、かわいそうでしょ」。鶴見さんの温情もあってか、男性はその後、職場復帰を果たせたそうだ。

 この年は鶴見さんと同時代のレスラーが相次いで亡くなった年だった。ラッシャー木村、山本小鉄、星野勘太郎。居酒屋での話は事件の取材を忘れて彼らとの思い出話にまで及んだ。「オレもだいぶ弱ってきたし。いつ逝くか分からないよね」。あれから12年。悪役レスラーの温かい素顔を教えてくれた鶴見さんも、ついに旅立ってしまった。

(記者コラム・甲斐 毅彦)

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