今春、トラックで世界舞台を踏んだ駒大のエース・田沢廉、スーパールーキー・佐藤圭汰が初の大学駅伝3冠へ牽引

スポーツ報知
長野・野尻湖での夏合宿中に取材に応じた駒大の田沢廉

 伝統の長野・野尻湖合宿から駒大初の大学駅伝3冠への挑戦が始まった。まぶしい新緑の中、トラックで世界舞台を踏んだ田沢と佐藤圭汰(1年)も初日の16日から参加し、22日から志賀高原で2次合宿中だ。9月にも同じく長野県の菅平で3次合宿も予定している。指導歴28年目の大八木弘明監督(64)は、強化の意図を説明する。

 「脚筋力を作るために起伏のある野尻湖で走り込んで、志賀高原では心肺機能を高めるトレーニングを積みます。20キロ、30キロ走の中で上りや下りへの適性も見えますね。菅平では距離走にスピード練習も少し入れながら。ウチは、いつも野尻湖から夏と駅伝に向けたシーズンが始まります」。

 “平成の常勝軍団”と呼ばれた、学生長距離界屈指の強豪チーム伝統の夏合宿のビッグデータが存在する。「私が来てから、28年の夏合宿のデータが残してあります。見返すと、上りや下りの適性判断の参考材料になりますね。このコースでこれくらいで走れたら、あの選手は箱根の山をこれくらいで上れていたな、とか。走りの特長や適性は、データから見えてくるものがありますから」。かつては手書きで残してきたデータを現在はパソコンに移行して保存。現役学生たちと以前在籍してきた選手たちの練習メニューや消化具合、タイムなどを比較するなどして強化に役立てているという。

 この春のトラックシーズンでも話題を集めてきた。5000メートルでエースの田沢が13分22秒60、スーパールーキーの佐藤はU20日本記録となる13分22秒91をマーク。駒大歴代1、2位の好記録をたたき出し、ともに世界舞台へと羽ばたいた。7月の米オレゴン世界陸上1万メートルで田沢は、中盤で腹痛を起こして28分24秒25で日本勢トップの20位。「入賞を狙いに行ったんですが、途中体調や脚の状態がよくなくて。自分の本来持っている力を発揮できなかった悔しさがあります」。5000メートルを14分ちょうどで通過し、そこからペースが上がった。残り1000メートルで1キロ2分40秒ペースに上がり、残り400メートルではさらにハイペースとなった。現地に帯同した指揮官も「ペースメーカーもいないし、世界のレースの流れやレースを作る大変さが勉強になりましたね」と、世界最強決定戦のし烈な駆け引きを目の当たりにしたという。

 大学駅伝歴代最多24冠を誇る駒大でも、現役学生の世界陸上出場は初めての快挙だった。2024年パリ五輪も1万メートルで狙う田沢は「1年生の頃から監督がずっと『世界だ、世界だ』と言って下さったので。レース後には『まだまだだな』と言われましたが、その舞台に自分が監督を連れていけたことは、非常に喜ばしいことだと思っています」と熱血指導の恩師に感謝した。

 「箱根から世界へ」を体現したエースの雄姿にチームもわいた。世界陸上の田沢のレースを寮の食堂のテレビで部員たちは観戦した。大八木監督は「今年は『駒澤から世界へ』を掲げてきた。それが実現できたことは、チームにとっても良い経験になりました」とうなずく。一方で、来年8月のブタペスト世界陸上の参加標準記録は、今年の27分28秒から日本記録よりも速い27分10秒00までレベルが一気に上がった。「日本記録を出せる選手になっていかないとダメだぞ、と田沢には言っています」と、大八木監督は既に田沢と来年に向けた強化プランも練り始めたことを明かした。

 世界舞台から帰国した21歳は、駒大のエースとして再び走り始めた。「今年の駅伝シーズンのチーム目標は3冠です。『夏合宿のでき次第で、結果は変わる』と皆にこの合宿で伝えました。夏合宿をしっかり頑張れれば、前半シーズンは良くない結果だった選手でも、駅伝シーズンでは結果を残したり、好走することもできる、ということも伝えました」と大きな背中と言葉でチームを引っ張っている。

 3つの高校記録を引っさげて今春、入学した即戦力ルーキー・佐藤の台頭も心待ちにしている。最近では、練習中に佐藤と会話することも増えてきたという。最上級生の田沢は「強い選手が入ったら、その選手に負けたくないという思いを誰が、何人持ってくれるかでチームの強さは変わる。(佐藤)圭汰に負けたくない、という先輩が何人いるかで、その相乗効果に関わってくると思います」と上級生たちのさらなる奮起も望んでいる。

 過去3年間で、大学駅伝では区間賞を4個獲得も区間新記録はまだ樹立していない。「(区間新記録は)できることなら残しておきたい。今年最後なので、どの駅伝でも一番良い結果を残したいですね」。世界陸上に出たことで、学生長距離界のエースへの周囲の注目や期待は膨らんでいるが「重圧にはならないです。日本人に勝つことは当たり前。負けない走りをするのは当たり前で、それが重圧になることはないと思います」と田沢はきっぱりと言い切る。注目される出走希望区間については「適材適所みたいな感じで、チームの優勝のために走ります」とこだわりはない。駒大初の3冠獲得に向けて、どこを任されても区間新記録の快走を見せる覚悟だ。

 佐藤は、初の海外レースだったU20世界選手権5000メートルで11位。3000メートル予選後、39度の発熱で決勝を棄権した。その影響で「野尻湖合宿前10日間くらいは、練習ができませんでした。体調を崩したのは悔しい気持ちもありますが、アフリカ勢のレースを肌で感じられて、すごく良い経験になりました」と振り返る。

 高校時代に輝かしい実績を残してきたがコロナ禍の影響で、意外にもこれまで国際大会には出場経験がなかった。「長時間の飛行機でのフライトや違う言語の中、交流をしたり。英語が話せないと、招集所で何を言っているのかもわからない。体調管理も含めて、もっと行く国を事前に色々調べて、自分なりに調整方法もしっかり考えていかないといけない」と世界舞台で活躍するために必要な要素を肌で感じ取った。

 初めて日の丸を背負った経験も大きな刺激となった。「国を代表して出るという特別感がある。もっと上のレベルの世界陸上や五輪に出たいな、と思いました。目指すためには覚悟を持って、今まで以上の練習に耐えられるくらいのメンタルや体を作っていかないと。もっとレベルアップしないといけない」と旺盛な向上心が一層かき立てられた。野尻湖合宿では強い雨の日も一人、黙々とジョギングをする姿も見られた。

 帰国してチームに合流後、田沢と話す機会も増えた。「色々話して頂いて。自分は、最近のレースではしんどいところで粘れていない。そこを変えていくためには、長い距離の練習をしっかり積まないとダメだよ、と教えて下さった。スタミナをつける時期として、この夏が終わるくらいまでに、30キロはしっかりこなせるようにしていきたいですね」と自身の課題を明確に受け止めている。

 初めて挑む大学駅伝に向けては「10月の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝までは距離的にも1年生だからと臆せずに、チームに貢献したい」と闘志を燃やす。一方で、20キロ以上の10区間となる来年1月の箱根駅伝については「まだ不安しか無い。この夏合宿で、しっかりスタミナ作りができたら」と気を引き締めている。

 昨年は全日本大学駅伝を制した。今年度の駒大には、前回の箱根駅伝総合3位のメンバーが9人残っている。今年1月に左大腿骨を疲労骨折した、1万メートル27分41秒68の鈴木芽吹(3年)も、20キロ走をこなせるほどまでに回復。早ければ、11月の全日本大学駅伝から戦列に復帰予定だという。今年2月の全日本実業団ハーフマラソンで、主将の山野力(4年)が日本人学生最高記録の1時間0分40秒の4位。5月の関東インカレ2部ハーフマラソンでは、花尾恭輔(3年)が1時間2分56秒で2位に入った。1万メートル決勝では、篠原倖太朗(2年)が自己ベスト更新の28分41秒13で8位となった。7月のホクレンディスタンスチャレンジ網走大会5000メートルで、安原太陽(3年)が自己新記録となる13分37秒01をマークした。

 「田沢には、箱根駅伝2区で(駒大初となる)区間新記録を狙える力はあると思います。(大会直前に状態を)そこまで持っていけたらと思いますね。山野や花尾もハーフマラソンできちんと走れている。1年生は佐藤以外にも、帰山侑大と伊藤蒼唯が面白い存在です。昨年、試合に出られていなかった芽吹や篠原も戻ってきた。(今季の成長株の)篠原は気持ちが強くていいところを持っています。今年の駅伝でも、またそこそこ面白い戦いができるかなと思っています」

 名将は不敵に笑う。とはいえ、勝負の厳しさも知る指揮官は、史上5校目となる大学駅伝3冠に向けてはまだ慎重な姿勢を見せている。「僕の中では、3冠はなかなか難しいというのがありますので。出雲駅伝、全日本大学駅伝をしっかり取ってから。箱根に向けてしっかりと準備をしたいなと思います」。“藤色の常勝軍団”は、世界舞台の経験を糧に大学駅伝3冠へのチャレンジロードを走り始めた。(榎本 友一)

 ◇田沢 廉(たざわ・れん)2000年11月11日、青森・八戸市生まれ。21歳。マラソン大会で負けた悔しさから、是川中で本格的に陸上を始める。3年時に全中3000メートルで決勝進出も最下位の18位。青森山田高では全国高校駅伝に3年連続出場。3年時のアジアジュニア5000メートルで銀メダル。駒大に進み、全日本大学駅伝では1年7区、2年8区、3年7区で区間賞。箱根駅伝は1年3区3位、2年2区7位、3年2区区間賞。21年12月の日体大長距離競技会で日本歴代2位の27分23秒44をマーク。180センチ、61キロ。

 ◇佐藤 圭汰(さとう・けいた)2004年1月22日、京都市生まれ。18歳。父の勧めで小学4年から本格的に陸上を始め、蜂ケ岡中で3年時に全国中学大会1500メートルで3位。洛南高に進み、全国高校駅伝は1年時に2区区間賞、2年3区5位、3年3区4位。184センチ、67キロ。今年4月から駒大経済学部経済学科に進学。

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