社会部記者が初めてプロレスを見た日 普段とは違う「先生」という呼び掛け 川松真一朗都議デビュー戦

スポーツ報知
プロレスデビュー戦に挑んだ川松真一郎都議(右)と対戦した文京区議でもある西村修

 私は、社会部記者として幾度となく耳にしてきた政治家を呼ぶ際の「先生」という言葉に違和感を持っていた。この日、ライトに彩られた四角いリングに向け、観客席から飛ぶ「先生~!」を聞くまでは。

 20日、東京・大田区総合体育館で開催されたDDTプロレスの「WRESTLE PETER PAN 2022」で、私はリング横の記者席に座った。元テレビ朝日アナウンサーで東京都議会議員の川松真一朗氏(41)のデビュー戦の取材だった。対戦相手はプロレスラーで文京区議会議員の西村修(50)。「社会部記者でもプロレス取材ができるためのありえない要素」をかき集めたような、千載一遇のチャンスだったように勝手に感じていた。

 強烈なライトに照らされたリングの中央に人間が立つと、周りを囲う観客たちが次々にカラフルなテープを飛ばす。ゴングが鳴れば、リングの中、あるいははみ出した外で、人が人を倒し、殴り、起き上がり、叫ぶ。

 私は、鼓動が早くなる自分に動揺しながら、戦いの間にリングサイドや観客席から入り込んでくる「先生~!」という声の存在に気づいた。他の選手は名前で呼ばれるはずのところ、川松氏は「先生」と呼ばれていた。都議としては呼ばれ慣れている呼び方だろうが、ここでの「先生」の響きは趣を異にしていた。

 普段、政治家を取り巻く人々が「先生」と呼ぶ声の裏に感じる様々な大人の事情や、純粋な尊敬とは若干異なる持ち上げ、どろっとした不純物がここにはない。川松氏が地元墨田区にあやかった必殺技「東京スカイツリーボム」を仕掛けると、「先生すげえ」という声が客席から漏れる。こんなにも熱く爽やかな「先生」という声を聞いたのは初めてだった。

 試合後、敗れた川松氏は両脚を引きずっていた。「『先生』ってたくさん声があがってましたよね」と聞けば、「ほんとですか!?いやあ、うれしいです。けど、必死すぎて記憶が飛んでるんです」と破顔した。けがした脚を引きずりながら笑う人を見たのも初めてだなとなんとなく思った。額を伝う無数の汗と笑顔、地面をはう脚とスーツにしか見えないコスチューム。全てが過去に見た光景のどれでもなくて、脳みそがバグりそうだった。

 試合から5日後の25日、改めてあの日について尋ねると、川松氏は「政治家も机の上の勉強や議論だけやってたら狭い世界観で政策がどんどんちっちゃくなっちゃう。僕はたまたまプロレスという分野に行きましたけど、政治家だから政治だけやるんじゃなくて、様々な分野で五感をフルに活用して政策を作っていく方がより中身の濃い議論ができるんじゃないかなと思う」と答えた。思わず「先生」と返してしまいそうになる都議の声だった。

 ただ、プロレスで勝者になりたいかと問えば、「なりたいです」と即答。「敗者は格好悪いですよ。僕みたいな者がそう簡単には勝者にはなれないと分かってます。けど、あそこで勝者の名乗りを受けたらどんな気分なのかなと思います」。その言葉には政治とも違うあの日の熱が爽やかにこびりついていた。(記者コラム・瀬戸 花音)

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