中村獅童(49)が8~9月の2か月間で福岡、名古屋、東京、京都の4都市を巡る「超歌舞伎2022」に出演中だ。「伝統と革新」を信条とする獅童が、バーチャル・シンガーの初音ミクとのコラボで古典歌舞伎と最先端のデジタル技術を融合させた公演。2016年の千葉・幕張メッセでの初演以来、7年目を迎え「歌舞伎を知らない方々を振り向かせるのが自分の使命。お祭りに行く感覚で楽しんでいただきたい」と呼びかけた。(有野 博幸)
これまで幕張メッセと京都・南座で上演されてきた超歌舞伎が、福岡・博多座、名古屋・御園座、東京・新橋演舞場に初進出する。獅童は「最初から歌舞伎専門の劇場でかけたいと思っていて、19年に初めて南座でやった時には『歴史が動いた』と思った。今回、まさか2か月間の長期公演ができるとは…。これほどの大きな展開は想像していなかった」と感慨深げに語る。
成功の要因は「初音ミクさんのファンとサブカル好きの若者たちに育ててもらったことが大きい」と分析。音楽ライブのようにペンライトを振って会場全体で盛り上がるのが超歌舞伎の魅力だ。今月4~7日の博多座では「口コミで『ペンライトがあった方が楽しい』と広まって、後半2日間は売り切れました」。新型コロナの感染予防で観客の発声が禁止のため、大向こうの音声入りペンライトが販売されている。
「若い世代が歌舞伎を見てくれないと、明るい未来はない」と危機感を持ち、伝統と革新を大事にしている。「新しいことをすると、疑問の声も出るけど、自分の信じた道を突き進む。伝統を守りつつ、革新を追求することが大事」。物語は古典歌舞伎を題材に作られ、化粧や衣装も伝統を守っている。根底に古典へのこだわりがあるから、どんなに派手な演出をしても心に響く作品として成立する。
今回上演される「永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)」は古典の名作「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」の世界観に初音ミクの代表曲「初音ミクの消失」の要素を取り入れた新作だ。さらに舞踊の「萬代春歌舞伎踊(つきせぬはるかぶきおどり)」と楽しみ方を解説する「超歌舞伎のみかた」も。「踊りがあり、お芝居があり、お芝居の中には歌舞伎の醍醐(だいご)味である立ち回りもある」。新橋演舞場と南座の一部に出演する長男・小川陽喜(はるき)くん(4)との親子共演にも注目だ。
新橋演舞場と南座では、獅童の「お弟子さんたちも頑張れば、いい役ができるという希望の星になりたい」という思いから期間限定で澤村國矢(44)と獅童の弟子たちが主要な役柄を演じるリミテッドバージョンを上演する。一般家庭出身の國矢は「獅童さんのおかげで夢がかなった。自分が先頭を切って、みんなが夢を見られる公演にしていきたい」と思いを込めた。
世襲が一般的な歌舞伎界にあって獅童は父親が早くに歌舞伎俳優を引退しているため、映画やドラマで知名度を上げ、苦労して現在のポジションを確立した。それだけにゼロから作り上げた超歌舞伎への愛着は絶大だ。「ライフワークとして、一生付き合っていきたい。100年後、僕らがいなくても初音ミクさんは必ず生きてますから、超歌舞伎がいつか『古典の名作』と言われるように残していきたい」と先を見据えている。
◆大河で新たな一面
獅童はNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜・後8時)で鎌倉幕府を支える有力御家人の一人、梶原景時を好演した=写真=。寡黙で無表情を貫いていた景時が討ち取られる直前、小栗旬(39)演じる北条義時とのやり取りで一瞬、涙ぐむ場面は視聴者に強い印象を残した。
悪役として描かれることの多かった景時だが、「頭脳が優れた武将なので品格、思慮深い立ち居振る舞いを意識した。三谷幸喜さんの作品には基本、悪役が出てこない。みんな何かしら共感できる部分がある。三谷さんに“新たな中村獅童”を引き出してもらいましたね」。知り合いから「大河、見てますよ」と言われる機会も多く、大河ドラマの影響力に驚いている。